店内をゆっくり見られたのは閉店後だった。
バイトと思われる女の子に上から下まで見られながら歩くのは何とも言えない。
彼女は二人の事をミスター・ウィーズリーと呼んでいる。
それを聞いて何か変な感じになったのは多分間違っていない。
「名前、何か欲しいのあった?」
「特にないわ。私は悪戯する相手も居ないし」
「ふーん?」
ジョージは首を傾げながら覗き込むようにして私を窺う。
その手は何やらピンク色の瓶を手にしている。
チラリと見るとそれには最高級惚れ薬と書いてあった。
「それ、効くの?」
「バッチリさ。なんなら試してみるか?」
ニヤリと笑ったジョージに首を振る事で返事をする。
惚れ薬を使った上で得られる相手なんて要らない。
足を進めて棚を次々見て回る後ろを着いてくるジョージ。
ちょっと見ない間に少し顔付きが変わった気がする。
顔を見つめていたら怪訝そうに眉を寄せた。
慌てて商品に興味があるフリをして背を向ける。
「名前、何か元気ない?」
「えー?そうかしら?」
「名前」
グッと強く腕を掴まれて振り向かせられた。
どうして今シリウスは隣に居ないんだろう。
シリウスなら助け船を出してくれるのに。
「俺、名前を見てるから解るよ」
「やだなぁ、ジョージったら。眉間の皺、癖になっちゃうわよ」
「…ビルの事?」
眉間に向かって伸ばしていた手も掴まれてそう言われた。
当たりと言えばそれは当たりで、どちらかと言えば答えたくない。
「それは答えなきゃ、駄目かしら?」
「それ、殆ど肯定だと思うけど?でも良いや…答えなくて良い」
そう言って両腕を引かれてジョージに抱き締められる。
慌てて逃れようと両腕を突っ張ってみるけれどビクともしない。
逃すまいと力を込められた両腕が背中に回っている。
「離して」
「嫌」
「ごめんね」
杖を振ってジョージを眠らせると支えながら床に座り込む。
私では運べないから守護霊をシリウスに送ると慌てて来てくれた。
フレッドも一緒で、二人でジョージを支えて階段を登る。
後ろから三人を追い掛けながら息を吐き出した。
「名前、ジョージはどうしたんだ?」
「眠らせただけ。その内起きるわ。ごめんなさいフレッド」
「謝る事ないさ」
フレッドはふんわりと微笑んで私の頭を撫でる。
最近皆に撫でられてばかりだな、と苦笑いを浮かべた。
ベッドに寝かされたジョージにもう一度謝る。
けれど今はジョージの事を考える余裕がない。
「名前、帰るか?」
「帰らなきゃ。報告もしなきゃいけないし」
「帰りたくないなら俺一人で帰るぞ」
「ううん、帰る。フレッドまた来るね」
「おう、待ってる」
シリウスは私の手を握って姿くらましする。
直前に見えたのは目を開いたジョージの顔だった。
(20130109)
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