「全く、名前に守って貰うなんて、もう一度勉強した方が良いんじゃないかい?」


機嫌が悪いリーマスがそう言い放つのを聞いてハリーと二人で苦笑いを浮かべた。
こう言っていても実はリーマスは心底ホッとしている。
怪我はあったしトンクスは入院しなければならないけれど皆無事だ。
再び口を開いたリーマスをシリウスの元に置いてハリーとシリウスのベッドを離れる。
それと同時に医務室の扉が開いてビルとモリーさんが入ってきた。
私はあっという間にモリーさんの腕の中に居て、きつく抱き締められている。


「名前!ああ、良かったわ!もう私心配で心配で…まあ!顔に傷が!」

「母さん、名前が苦しそうだよ」


苦笑いを浮かべてビルが私からモリーさんを引き離す。
モリーさんは私の頬を撫でてからロン達を抱き締めに行った。
ビルに向き直ると目が頬にある傷を見ている事に気付いて思わず一歩下がる。
隣に居たハリーはいつの間にかモリーさんに抱き締められていた。


「無事で良かったよ。傷は、治るの?」

「うん…あの、薬を塗れば」


私がポケットから出した塗り薬をビルが奪い取る。
ビルの指が薬を塗るのが痛くて仕方ないけれど、逃げられなかった。


「女の子なのに、顔に傷なんて残ったら大変だ」


仕上げだと言わんばかりに指でグッと押される。
ヒリヒリする傷に耐えていたら、頭を撫でられた。
ゆっくりゆっくり大きな手が頭を撫でる。
顔を上げるとビルがふんわりと笑っていた。


「おい名前、水!」


いきなり聞こえた声の出所を見れば不機嫌なシリウスと目が合う。
先程までリーマスにチクチクと攻撃されていたのだから仕方ない。
けれどせっかくビルが来てくれたのにと思うのも事実。
早くしろ、と急かす声に仕方なくビルから離れた。


「自分で取れるでしょう」

「取れねえ」


差し出したグラスを受け取ったシリウスの手に腕を掴まれる。
仕方なくシリウスのベッドに座るとハリーが笑っているのが見えた。
ダンブルドア先生と話した直後は元気がなかったけれど今は平気なのだろうか。
もしシリウスに何かあればあの笑顔は見られなかっただろう。


「…名前、お前にはまた借りが出来た。サンキュ」


不意にお礼を言ったシリウスに何も言わずに頷く。
ハリーの悲しむ顔を見なくて済んだだけで充分だった。


「寝た方が良いわ。また来るから」

「どうって事ねえよ」

「起き上がれない癖に何言ってるのよ」


ツンと彼の脇腹を突つくと痛みに顔を顰める。
結構な勢いで吹っ飛んで壁にぶつかったのだから当たり前だ。
マダム・ポンフリー曰く明日には退院出来るらしい。
ムッとしたシリウスに手を振って皆と医務室を出た。


モリーさんが私も医務室に居た方が良いと言うのをビルが止めながら廊下を歩く。
リーマスに助けを求めても彼は肩を竦めて首を横に振るだけだった。
最終的にはやんわりと、本当にやんわりとモリーさんを止めてくれたけれど。


玄関ホールに差し掛かった所で後ろから誰かが私を呼ぶ。
振り返ると声から予想した通り、ドラコが立っていた。
ドラコはビル、モリーさん、リーマスを見てから私を見つめる。
三人に先に行って貰う事にして私はドラコとの距離を縮めた。
薄い青色の瞳が私の頬に釘付けになり、眉が寄る。


「傷が出来てるじゃないか」

「大丈夫。直ぐ治るのよ」

「それなら良いが…痕が残ったらどうするんだ」


機嫌が良くない事が解る声でドラコが言う。
伸びてきたドラコの手が私の手を掴んだ。
ギリ、と音がしそうな程力が込められる。


「貴方の、お父様にお会いしたわ」

「…だろうな」

「穢れた血、ですって」


ドラコの顔が歪んだと思ったら手を引っ張られて抱き締められた。
いつの間にかドラコの背は私よりも頭一個分大きい。
背中にしっかりと回された腕は本当に逞しいと思えた。
そして、誰から聞いたか解らないけれど彼は知っている。
先程魔法省であった出来事をきっと知っているのだ。


「僕は、家に…あの人に従うしかない」

「ええ、解ってるわ」

「…僕は、名前を傷付けたくない」


ギュッと力を込める両腕が小さく震えている。
肩に乗せられたドラコの顔はどんな表情だろう。
腕を回して広い背中を宥めるように撫でる。


「ドラコ、貴方が本当にあの人に従うのが嫌ならダンブルドア先生に相談するのよ。お母様も、お父様も保護してくれるわ。勿論私も協力する」

「…」

「考えてみて?それに、私はいつもドラコの味方よ」


忘れないで、とドラコの頭を撫でると腕の力が弱まった。
俯いたままの顔を上げさせ、頬を撫でるとくしゃりと歪む。


「名前が純血なら、良かったんだ」


ドラコの声は初めて聞く苦い苦いものだった。




(20130106)
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