突然現れて泊めて下さいと言った私にモリーさんは何も聞かず頷いてくれた。
どうにも申し訳ない気持ちが沢山で手伝いを申し出たのに受け入れて貰えず。
やる事もなく、まだ少し感情が高ぶっていたのでソファーに座って暖炉の火を眺める。
余り怒りたくはなくて、いつも怒らないようにしていた。
多少感情が高ぶったとしても以前のように人を攻撃したりはしていない。
それでも魔力が暴走してザ・クィブラーを燃やしてしまった。
シリウスを攻撃しなくて良かったと思う反面怒りの気持ちがまた燻ぶり始める。
「やあ、いらっしゃい名前」
「あ、ビル」
「皺が寄ってる。癖になるよ?」
クスクス笑いながらビルの人差し指が眉間に当てられた。
慌てて自分の指で解すように撫でるとまたビルが笑う。
シャワーを浴びたらしく赤毛から一滴水が落ちた。
手を伸ばして肩に掛けられているタオルで髪の毛を包む。
代わるようにビルの手が伸びてきたのでタオルを離した。
「何か嫌な事でもあった?」
「…シリウスと喧嘩、したの」
「喧嘩?」
首を傾げるビルにホグズミードの事や先程の出来事を話す。
ザ・クィブラーを燃やしてしまった事を話した時にはビルの眉がピクリと動いた。
それ以外は黙って相槌を打ちながら聞いてくれる。
ビルはこういう時絶対に私の話に口は挟まない。
「今日はのんびりすると良いよ。父さんと母さんと僕しか居ないから静かだけど」
「グリモールド・プレイスも変わらないわ。リーマスは偶に任務で居ないし」
「母さんはそれが気に入らないみたいだけどね」
ビルが声を小さくして言った言葉に思わずモリーさんを見る。
モリーさんはアーサーさんとザ・クィブラーの話に夢中。
苦笑いを浮かべた私にビルも似たような表情を浮かべた。
翌朝ビルとアーサーさんを見送ってからモリーさんにお礼を言って姿くらましをする。
モリーさんはまだ居ても良いと言ってくれたけれどこのままは良くない。
私は騎士団の人間でシリウスとリーマスと一緒に暮らしているのだから。
深く息を吐いて中に入ると相変わらず薄暗い。
何処に居るか考えてとりあえず厨房へと降りる。
扉を開くと出入口に背を向けるように座っているシリウスが見えた。
「ただいま、シリウス」
「…帰ったのか」
「リーマスは?」
「買い物」
素っ気なく答えるシリウスの向かい側に座る。
チラリと此方を見るだけで此方を見ようとしない。
机の上には私が燃やした筈のザ・クィブラー。
表紙のハリーが照れ臭そうに笑っている。
「ザ・クィブラー、燃やしてしまってごめんなさい」
「いや、良い。それ位どうにでもなる」
「でも良くなかったわ。ごめんなさい」
ゆっくりゆっくりとシリウスが此方を向いた。
その表情は不機嫌そのものだけれど、此方を睨んだりはしていない。
視線だけがうろうろとして最終的に伏せられる事で落ち着いた。
「俺も…悪かった。お前がどんなやつか知ってる筈なのに」
「喧嘩両成敗ね」
「…俺はリーマスに怒られたけどな」
苦々しい顔をして言いながらシリウスは頭を押さえる。
恐らくリーマスに叩かれたりしたのだろう。
「名前を信じる。マルフォイを信じるんじゃないぞ」
「それで充分よ」
手を伸ばして触れたシリウスの頭は少し腫れていた。
(20130106)
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