くるくるとシチューをかき混ぜながら溜息を吐く。
後ろではシリウスがザ・クィブラーを読んでいる。
ハリーのインタビューはお気に入りらしく読むのはもう何度目か解らない。
珍しく外出出来た事もあってシリウスはとても機嫌が良かった。
「名前、もう良いと思うよ」
「え?」
「シチュー」
リーマスにそう言われて鍋を見ると具材が鍋の中でくるくる回っている。
慌てて手を止めてもまだ鍋の中でシチューはくるくると回ったまま。
珍しいね、とリーマスが頭を撫でるのをシリウスが見て眉を顰めた。
「ホグズミードに行った日から何か考え込んでるね」
「あ、うん…あのね」
言葉を切ってシリウスをチラッと見る。
気付いたシリウスは何だと呟いた。
ドラコの事になるとシリウスはとても機嫌が悪くなる。
幾ら父親とは違うと言い聞かせても駄目なのだ。
「ドラコにマルフォイ家に来ないかって言われたの」
「マルフォイ家?勿論断ったんだろ?」
「シリウス、名前を睨むんじゃない」
案の定というか、予想通りの反応に溜息を吐く。
それが気に入らなかったらしくシリウスは立ち上がった。
落ち着いて、と言ってもシリウスは睨むのを辞めない。
「私はマグル生まれだから、行けないわ。ドラコにもそうやって断ったし」
「当たり前だ」
「でも、ドラコの家に行けば中から変えられるかもしれないとも思ったの」
「は?お前、向こうに行くのか?」
「行かないわよ。私は騎士団でやらなきゃいけない事があるもの」
「でも、お前はマルフォイと仲良くしてる。いつだって俺達を裏切れるだろ」
「ドラコは違うって言ってるでしょう!」
「どうだか」
フン、とシリウスが鼻を鳴らした。
沸き上がってくる怒りを発散させようと息を吐く。
シリウスはマルフォイの名前に捕らわれている。
自分がブラックの名前に縛られていると言うように。
確かにマルフォイ氏は死喰い人だけれど、ドラコは違う。
「マルフォイの坊ちゃんはお前から騎士団の事を聞き出すんだろ?」
「シリウス、辞めるんだ」
「こいつはスパイかもしれないんだぞ!」
「…ドラコは、私が騎士団に居る事は知らないわ」
そう言う自分の声がいつもより低い事がよく解る。
杖に手を伸ばさないようにしていたのにザ・クィブラーが燃えた。
リーマスが私とシリウスの間に立って私の肩に両手を乗せる。
私と目を合わせて落ち着くんだと少し厳しい声を出す。
「私…隠れ穴に、行く」
「今日は泊まって来ると良い」
リーマスの言葉に頷いて出口へと向かう。
シリウスが何かを言ったけれど私の耳には届かなかった。
(20130104)
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