ホグズミードに来るのはあの日以来だった。
前と違ってとても賑やかなのは今日がホグワーツのホグズミード行きの日だからだろう。


招待の手紙が届いたのは一昨日の朝の事。
シリウスも居るし、相手が相手だけに断ろうと思っていた。
実際相手を知ったシリウスは行くなと言っていたし。
だから断る手紙を書いていたのだけどリーマスは賛成してくれた。
シリウスは任せて、という言葉を信じて手紙の内容を書き換えて今に至る。


「名前!悪い、待たせたか?」

「大丈夫、そんなに待ってないわ」


息を弾ませて現れたドラコは私の頬を見ながら申し訳なさそうな顔をした。
いつもの青白い頬が赤くなっているという事はきっと走ってきてくれたのだろう。
手を伸ばして頭を撫でるとドラコは微妙な表情を浮かべた。


「行きたい所はあるか?」

「んー…特にはないわね」

「そうか。じゃあ、行くぞ」


促されてドラコと並んで歩き出す。
あちこちホグワーツの生徒が居て、見知った顔も沢山居た。
グリフィンドールの生徒に声を掛けられる度隣でドラコの眉が寄る。
ごめんね、と言うと慌てたように気にするなと首を振る。
以前のドラコならこんな風にはいかなかっただろう。


「今日は、何も予定はなかったのか?」

「ええ、何も入ってなかったわ」

「そうか…お前はいつも忙しそうだから、駄目かと思ってたんだ」


そう言って笑うドラコに心の中で謝る。
実は断ろうとしていた事は黙っておこう。



ドラコが連れてきてくれたのは以前も一緒に来たカフェだった。
物静かで生徒も余り居らず割とゆっくり過ごせる。
スリザリンのドラコにとっては都合の良いカフェだろう。
いくら卒業生とはいえ私はグリフィンドール出身。


頼んだ紅茶に砂糖を溶かしていると窓の外にハリーを見つけた。
隣に居る子がきっとハーマイオニーの言っていたチョウ・チャンだろう。


「そういえば、ハリーから聞いたわ。ハリーの言葉を借りるなら貴方が変だって」

「心外だな」

「ふふふ、仕方ないわ」


複雑な表情のドラコは、それでも自覚はあるらしい。
ジッと見つめていると照れたように顔を逸らされてしまった。


「でも、私は嬉しい」

「…名前はそういう僕の方が良いのか?」

「あら、ずっとそう言ってるじゃない」

「そうだったな」


そう言ってふわりと笑ったドラコは珈琲を口に運ぶ。
改めて見ると初めて会った頃よりも成長している。
まだ幼さは残っているものの、すっかり男性の顔だ。
なんだか一気に自分が老けたような気までしてくる。


「…聞きたい事がある」

「なぁに?」

「お前の憧れの人っていうのは…ウィーズリー、か?」


思わずどのウィーズリー?と首を傾げた。
するとドラコもハッとしたようで、慌てて髪が長いと付け足す。
頷くと何とも言えないような顔でドラコが唸った。
そういえばクィディッチワールドカップで会っている。
その時私の隣にはビルが居たからそれで覚えていたのだろう。


「…そいつが好きなのか?」

「うん。振られたんだけどね」

「は?お前…手を繋いで歩いてたじゃないか」

「あら、見てたの?」

「大分前だ…ダイアゴン横丁で」


ダイアゴン横丁でなんて昔の話だ。
確か、買い物に行った時ドラコを見かけた事がある。
あの時という事はそんなに前から覚えていたのか。


「…名前、マルフォイ家に来ないか?」

「あら、無理よ。私純血じゃないもの」

「そう、だな。悪い」


そう言ったきり話を変えたドラコはそれ以来ビルの話もマルフォイ家の話もしなかった。




(20130104)
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