シリウスが上機嫌で歌いながらあちこち飾り付けをしている。
病院から帰ってから機嫌の悪かったハリーも元気になって屋敷中楽しい雰囲気が溢れていた。
シリウスに言われた飾り付けをリーマスとしていたら隣から大きな溜息が聞こえてくる。
「どうしたの?」
「いや、相変わらず単純だな、と思ってね」
「シリウスの事?」
大きな声で歌っているシリウスを見てリーマスは二度目の溜息を吐く。
苦笑いを浮かべながら飾り付けの仕上げをする。
グリモールド・プレイスはシリウスの手によって姿を変えていた。
いつもと変わらない自分の部屋を出るとキラキラと輝くモールが目に入る。
厨房に降りていくまでにキラキラしていない場所はない位だ。
翌朝目を覚ますとプレゼントが積み上げられているのが見える。
その一番上に薔薇の花束が乗せてあった。
手に取ると薔薇の香りがふわりと漂う。
カードを見るとドラコの名前が書いてあって自然と口角が上がった。
ビルからはやっぱり本で、私が好きそうな感じの物語。
上がりっぱなしの口角をそのままに皆からのプレゼントを並べる。
クリスマスはとても賑やかだった。
任務に行っていたリーマスも居るしビルも来ている。
ムーディ先生とマンダンガスも居てあちこち賑やか。
ランチの後、病院へ行く皆を見送ろうと思っていたらビルに手を掴まれて気が付けば病院だった。
アーサーさんは元気そうだったけれど、モリーさんの顔を見ると少し表情が引きつったように見える。
「明日までは換える必要がないって聞いていましたよ」
モリーさんの声にアーサーさんはかなり動揺したらしい。
そして縫合という単語が出た瞬間モリーさんからなんとも言えない声が上がる。
ビルが私の腕を軽く引くのでそちらを見るとお茶を飲みに行こうと誘われた。
後ろをフレッドとジョージが着いてきたので四人で病室を出る。
少し歩いた所までモリーさんの声が聞こえてきてそこで初めて私は理由を理解した。
喫茶室まで行くとビルがそれぞれ飲み物を買ってくれて四人で一つのテーブルに座る。
「名前もマグルの病院ではやったの?」
「縫い合わせるなんて効くのか?」
「私はそんな怪我をした事がないからやった事はないけど、ちゃんと効くのよ。呪いの傷に効くかは解らないけど」
フレッドとジョージは顔を見合わせて縫合、と呟く。
確かに魔法界でそんな事はしないのだろう。
癒療関係の本を呼んでいてもそういう記述は見当たらない。
「呪いの傷には効かないだろうね。それに、母さんが許すとは思えないし」
ビルの言葉に廊下まで聞こえてきたモリーさんの声を思い出す。
言っている言葉は聞こえなかったけれど大体想像は出来る。
マグルの病院では当たり前だと言ったらモリーさんはどんな反応をするだろう。
グリモールド・プレイスに戻るとシリウスが待ちわびていたらしい。
シリウスがかけた魔法で屋敷の中では雪が降っていた。
ヤドリギやクリスマスツリー、モールに積もっていく。
暖炉の前でそれを眺めながら夕食後の一時を過ごす。
近くでジニーがクルックシャンクスを膝に乗せてじゃれ合っている。
「名前」
「あら、ハリー」
「隣良い?」
「勿論」
ハリーは私の隣に座ると同じように暖炉の前で上機嫌なシリウスを眺め始めた。
今シリウスは杖から小さめな花火を出している。
「此処へ着いた夜、シリウスはお酒臭かったんだ。いつもそう?」
「いつもじゃないのよ。偶に飲み過ぎちゃう事はあるわね」
やっぱり、という表情を作ったハリーに慌てて本当に偶にと付け加えた。
それでもハリーはシリウスに対して何かモヤモヤとした物があるらしい。
「そういえば、マルフォイなんだけど」
「うん?」
「最近変なんだ。僕と会っても何も言わないし、あの歌も歌わないんだ。人が変わったみたいだよ」
ハリーは少しだけ気まずそうにクィディッチの試合、と付け加える。
その事でハリーを責める気は全くないのだけど。
それよりも今聞いた事の方が重要だ。
ドラコが人が変わったように何もしない。
これは私には喜ぶべき報せだ。
「名前が何かしたの?」
「何も…ただ、幼稚な事はするなって言っただけ」
「ふぅん」
納得したようなしていないような曖昧な返事をしてハリーは再びシリウス観察を始める。
ドラコの事を思うと嬉しくて自然と緩んでしまう顔をそのままにバタービールを飲み込んだ。
(20130101)
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