いつものように本を読んでいたら決して私の部屋には入ろうとしないシリウスが大慌てで入ってきた。
どうしたのだと尋ねるよりも先に手を引かれて厨房まで連れて来られる。
そこでやっと何が起きたか聞かされた私は慌てて外に出ると隠れ穴へと姿くらましをした。
隠れ穴はとても静かだったけれど、そんなのは関係なしに扉を叩く。
これは一刻も早く知らせなければならない。
今日はアーサーさんは騎士団の任務だった筈。
扉が開いて現れたのはビルで、私を見て目を丸くした。
後ろの方にモリーさんも居てカーディガンを羽織りながら不思議そうな顔をしている。
「名前、どうしたんだい?」
「ビル、モリーさんも、アーサーさんが大変なの!」
サッとモリーさんの目が時計に移動してその顔から血の気が引いた。
それと同時に綺麗な鳥が現れて手紙を落とす。
モリーさんがその手紙を読んで別の羊皮紙に何かを書き始めるのを眺める。
ドキドキと心臓が煩く鳴っていて、不安がジワジワと広がっていく。
目の前に見えるビルの手を握るとしっかりと握り返してくれた気がした。
「これで良いわ。名前、貴女も来て頂戴」
頷いてビルの手を握っているのとは反対の手でモリーさんの手を握る。
病院に着いても詳しい事はよく解らなかった。
ただただ三人で待つ事しか出来ない。
震えが止まらずにいる私をモリーさんが抱き締めてくれる。
モリーさんの方が私の何倍も不安な筈なのに。
やっとアーサーさんに会えたのは明け方だった。
眠っているけれど無事を確認出来た事にホッと息を吐く。
グリモールド・プレイスに行くモリーさんを見送ってからアーサーさんの顔を改めて見る。
先程までの不安が消え去って今はホッと落ち着いてきた。
相変わらず握られている手に力が入れられる。
見上げるとビルが力なく微笑んでいた。
「ビル、仕事があるんだし、帰って休んで?アーサーさんには私が付いてるから」
「大丈夫だよ。それに、仕事は何とでもなる」
優しく笑ってビルは私の頭を撫でる。
それ以上は何も言えずに私も口を閉じた。
繋がっている手が凄く暖かい。
アーサーさんが目覚めたのはお昼近くなってからだった。
目を開けて私とビルを確認するとゆるゆると笑顔を浮かべる。
「父さん、気分はどう?」
「上々だ。ビル、名前も、心配掛けたね」
アーサーさんがにっこりと笑ったのを見て私もビルと顔を見合わせて笑った。
(20121229)
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