変身術のレポートを書き上げて私は羽根ペンとインクをしまう。
集中していたせいかいつの間にか談話室には誰も居なかった。
明日がお休みで良かった、と息を吐く。
まだ乾いていないインクを眺めながら考えるのはビルの事。
ふと目につくのはクリスマスに貰ったブックマーカー。
読みかけの本から出ている先で雫が光を受けてキラキラと光る。
少しだけ胸がキュンとして切なくなりビルに会いたくなった。
まだ乾かないインクを見て本を手に取る。
ビルからインクを乾かす呪文を教えて貰えば良かった。
読みかけの本を開くけれど集中力は切れてしまって文字が入ってこない。
進まないページをぼんやり見つめていると誰かが談話室に入ってきた。
「名前?」
「チャーリー?」
「やっぱり名前か」
ニカッと笑ってチャーリーは隣に座る。
私はブックマーカーを同じページに挟んで机に置いた。
チャーリーはいつの間にか私のレポートを覗き込んでいる。
「課題やってたのか」
「うん。チャーリーは?」
「俺は見回り」
チャーリーが杖を振るとティーセットが現れた。
手際良く紅茶を淹れるのを眺めていたらティーカップを差し出してくれる。
一口飲むと良い香りがして気が付けば先程感じた寂しさが消えた気がした。
「名前が課題やってるんならビルが居そうだけど」
「え?」
「よく言ってるよ、名前は頑張り過ぎるから誰かが見ててあげないとって」
チャーリーの言葉に驚きと嬉しさがこみ上げてくる。
まさかビルがそんな風に言っているなんて。
落ち着こうと紅茶を一口飲む。
普段私が淹れるよりも美味しい気がする。
「名前は勉強が好きか?」
「うん。私マグルでしょう?だから魔法の勉強は楽しい」
「頼むからパースみたいにはなるなよ」
一瞬どういう事か解らなかった私を見てチャーリーはおかしそうに笑う。
意味を理解した私も笑って、少しだけパーシーに申し訳なくなる。
けれど、多分私とパーシーでは根本的な部分が違うと思う。
私はパーシーみたいに野心家ではないし、難しい本は読まないし。
「名前」
笑っていた顔がふと柔らかくなって私の名を呟いたチャーリー。
いつもと違う笑顔に心臓がとくん、と鳴る。
ビルとは違うけれど整っている顔。
見つめられると幾ら私だって戸惑ってしまう。
チャーリーの指が私の髪を一房持ち上げた。
「あの、チャーリー?」
「ん?」
「どうしたの?」
私の問いには答えずにゴツゴツした大きな手が頭を撫でて離れていく。
そしてチャーリーは自分のカップを空にして立ち上がる。
「さあ、寝るか。明日休みだとしても、ビルと朝一緒に食えなくなるぜ?」
ニヤリと悪戯に笑うチャーリーはいつものチャーリーだった。
(20120702)
16