ビル達が隠れ穴に帰る時、モリーさんに一緒に来ないかと誘われた。
リーマスはともかくシリウスと一緒が気に入らないらしい。
ハリーとの約束だから行けないと言うとモリーさんは渋々頷いた。
モリーさんは優しくて本当に良くしてくれる。
出来る事ならシリウスとも仲良くなって欲しい。
けれど何も言えないから二人の仲はそのままだ。


会議をしたり、偶に任務に出掛けたり、なんだかんだと毎日が過ぎていく。
シリウスは相変わらずワインを飲み過ぎる事があった。
その度に翌朝リーマスがチクチクと言葉で攻撃をする。
そんな毎日の中、ジョージやジニー、ドラコから送られてくる手紙が唯一の楽しみ。
一番最初にドラコから手紙が届いた時はシリウスが受け取ってしまい、大変だった。
マルフォイの名前に激怒して危うく燃やされてしまう寸前。
ドラコは良い子だと主張するけれど信じては貰えなかった。


開いた時間はブラック家にある本を読む。
流石純血名家だけあって本の冊数はかなりのもの。
見た事はないけれどマルフォイ家もこうなのだろう。


「名前」

「あ、リーマス。お帰りなさい」

「ただいま。また本を読んでいたのかい?」


コツコツとリーマスの靴が鳴らす音が近付いて来る。
私の抱えている本を見て苦笑いを浮かべた。


「まだ読んでない本が沢山あるの」

「貸して。運ぶよ」

「あ、有難う」


半分リーマスに渡して一緒に厨房まで降りる。
厨房に居たシリウスは何をするでもなく暖炉の火を眺めていた。
私とリーマスに気付いて振り向いた瞬間不思議な音が響く。
リーマスの手には先程の本、頭を押さえるシリウス。


「いっ…てえな!何すんだリーマス!」

「煩いよ。耳元で大声出さないでくれるかい?」

「誰のせいだと思ってる!」

「君の腑抜けた顔を見ていたら苛々するんだよ」


先程まで柔らかい笑みを浮かべていたリーマスは何処へ行ったのだろう。
笑顔なのに恐怖を感じるリーマスは相当ご立腹らしい。
シリウスはリーマスの言葉に反論しようと口を開く。


「いつまでも腑抜けていられると鬱陶しい」

「腑抜けてなんかいねぇよ」

「へえ、そう。名前、本は此処で良いかい?」

「あ、うん。有難うリーマス」

「構わないよ」


リーマスは柔らかく微笑んで私の頭を撫でると、寝ると言って厨房を出て行った。
あんなにあっという間に態度を変えられるリーマスは凄いと思う。
シリウスを見るとまだ頭を押さえていて、ぶつぶつ言いながら座った。


「シリウス、頭冷やさないと」

「…大丈夫だ」

「駄目よ。ほら、手を退けて」


ムスッとした顔のままシリウスは手を退かす。
本の何処で叩いたのかは解らないけれどあの本はかなり厚い。
シリウスの頭は赤くなっているけれど、血は出ていないようだ。
氷を出して頭に乗せるとシリウスの肩が跳ねる。
氷の袋をシリウスの手に持たせると、冷たいと呟いた。


「シリウス、リーマスと親友なのよね?」

「ああ。もう直ぐ満月だから機嫌悪いんだろ」

「あ…そっか」

「思い切り叩きやがって」


ぶつぶつと文句を言ってシリウスは再び暖炉を眺め始める。
それを見て持ってきた本を開く。
タイトルだけで選んだけれど、外れかもしれない。
相手の怪我を酷くさせる魔法薬なんて作りたくないのに。
それでも何かないかとページを捲っていたら名前を呼ばれた。
顔を上げても暖炉を眺めるシリウスの後頭部が見えるだけ。


「俺は、そんなに腑抜けた顔してるか?」

「さあ…それは解らないけど、不満を持って塞ぎ込んでるのは確かね。ハリーの方が大人に見えるわ」

「…それは俺が子供っぽいって事か」

「精神的にね」


体ごと此方を向いたシリウスは何かを言い損ねたように唸った。
子供っぽいだなんて私に言われてイラッとしたのかもしれない。
もしくは何か自分の行動で思い当たる節があったのかも。
どちらにしてもシリウスはちゃんと向き合わなければならない。
いつまでも大人気なくハリーに心配掛けているのは良くないと思う。


「俺は騎士団の為に出来る事がない」

「なくはないわ。私の方が少ないもの」

「名前は外を自由に出歩けるだろ」

「シリウス、外に出なくたって出来る事はあるわ。クリーチャーに優しくするのよ」


ハーマイオニーのように屋敷しもべ妖精に権利を、と言っている訳じゃない。
ただ、クリーチャーはブラック家の人間ならば従う。
あのタペストリーを見て私はある可能性に辿り着いた。
クリーチャーを蔑ろにしてはいけない。
そう伝えてもシリウスの首は縦には動かなかった。




(20121224)
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