ロンとハーマイオニーの監督生おめでとうパーティーは賑やかだった。
モリーさんとビルの髪の毛談義をBGMにオレンジジュースを飲む。
去年の事があってからモリーさんは私に聞く事を諦めたらしい。
短い方が、と言われてもビルの髪の毛が短いのは見た事がないのだ。
モリーさんが他の事に気を取られた隙にビルが此方へやってくる。
私を見て少し困ったように笑ったのは先程の事が原因だろう。
「ビル、オレンジジュース飲む?」
「うん、貰うよ」
差し出したオレンジジュースを受け取ってビルは横に立つ。
モリーさんがアーサーさんと話しているのを見てビルがホッと息を吐いた。
チラリとビルを窺って、自分の手の中のグラスに視線を戻しながら呼び掛ける。
ビルが此方を向いたような気配がしたけれどまだグラスを見たまま。
「さっきは、我儘言ってごめんなさい」
「気にしてないよ。珍しい名前の我儘を叶えてあげられないのは残念だけど」
顔を上げると申し訳なさそうな顔をするビル。
ビルは全く悪くなくて、諦めの悪い私が悪いのに。
そんな顔をして欲しくなくて首を横に振った。
壁際に置いてある椅子に座って静かな部屋を眺める。
皆帰ったり寝てしまったり部屋に戻ったり。
明日は皆がホグワーツに出発する日だ。
賑やかだったこの屋敷も静かになるだろう。
ビル達も隠れ穴に戻るから三人とクリーチャーだけになる。
最も、リーマスは任務で居ない事も多いのだけれど。
ぼんやりしていたからか、扉の開く音に心臓が跳ねる。
危うくオレンジジュースを零してしまうところだった。
音の正体を確かめるとジョージの顔が覗いている。
目から上だけで此方を見ていて、入って来ようとしない。
名前を呼ぶとゆっくり一歩ずつ入って隣に座った。
「ジョージ、朝早いわよ?」
「うん、知ってる。でも、名前に会いたくて」
「明日の朝会えるじゃない」
そうじゃなくて、と拗ねた声を出すジョージ。
近くにあった空のグラスにオレンジジュースを注いで差し出す。
素直に受け取ってジョージはそれを一気に飲み干した。
「ジョージも七年生ね」
「名前に会えない」
「仕方ないわ。ちゃんと勉強するのよ?」
「俺は成績なんてどうでも良いよ」
「そう言わないで。知識は持ってて無駄にはならないわよ」
黙ってしまったジョージの頭を撫でる。
けれどそれは直ぐにジョージに掴まれて中断させられた。
そのまま腕を引っ張られて抱き締められる。
いつもの火薬の臭いではなく、甘い香りがした。
「全然振り向かないな」
「理由は知ってるでしょ?」
「知ってる」
ギュッと回された腕に力が入り、肩にジョージの顔が埋められる。
何を言うわけでもなくただそのまま。
静かな部屋は先程よりも静かに思える。
何を言っても間違いな気がして大きな背中を撫でた。
(20121219)
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