ノックをしてみても返事がないので勝手に扉を開けた。
勿論中に居る側とすれば驚きだろうが、今はどうでもいい。
侵入者の私を睨んでいるけれど、恐い訳もなく。


「入って来るな」

「お断りします」


バックビークにお辞儀をしてから撫でる。
本当は外で生活させてあげられたら良いのだけど。
此処に居ると知ればハグリッドも会いたがるだろう。
任務から帰れば会う事も出来るかもしれない。


「シリウス、ハリーが心配してるわ」

「…」

「ハリーが無罪だったの嬉しくないの?」

「そんな事っ…は、ないさ」


怒鳴りかけたと思えば今度はしょんぼりしてしまった。
隣に座るとシリウスは間を空けるように移動する。
私も間を詰めるのでシリウス今ソファーの隅っこだ。


「今日の夜はロンとハーマイオニーの監督生おめでとうパーティーなんですって」

「…監督生か」

「シリウスも準備手伝ってね」

「俺が?」


嫌そうな顔をするシリウスの手を掴んで立ち上がる。
当然私なんかより背の高いシリウスを引っ張るなんて無理。
少しでも引っ張れれば良いのだと思ったのだけど、あっさりシリウスは立ち上がった。
反動で転びそうになった私はヒヤッとしたけれど思っていた衝撃は来ない。
閉じていた目を開くと目の前は深い赤色の布。


「おいおい、危ないな」


予想外に近くから聞こえた声に驚いて両腕を伸ばそうとしたけれど、背中に回った腕が邪魔で出来ない。
バタバタと暴れてみてもやっぱり先程思った通り力では適わないようだ。


「シリウス、離して」

「お前小っせえなぁ」

「シリウスが大きいのよ」


もう一度、と腕をなんとか体の間に滑り込ませる。
その時、いきなり腕が離れてシリウスが離れていく。
次に聞こえた声に私は思いっきり振り向いた。


「何してるんですか?」

「よろけた名前を支えただけだ。そんな恐い顔すんなよ」

「…名前、母さんが帰って来た。行くよ」

「あ、うん」


ビルに腕を引かれて部屋を出る瞬間振り返ってシリウスに念を押す。
ニヤニヤしているシリウスはどうやら準備を手伝ってくれるらしい。
軽くひらひら振られた手を見てから前を歩くビルを見る。
先程の声はいつもより厳しくて余り聞かない声だ。


「ビル、怒ってる?」

「怒ってないよ?それとも、怒られる事でもした?」


振り向いてくすりと笑うビルにホッとして横に首を振る。
そうなるとこの引かれている手が気になってきてしまう。
目に入るビルの手はいつも頭を撫でてくれる優しい大きな手。
私が望む形で、想いで私に触れる事はない。
それでも触れているという事実だけで嬉しい私は現金だ。
私の中でビルは一番。


「私、ビルが大事」

「僕も名前が大事だよ」

「ビルが好き」

「…うん」

「一年生の時からずっと好き」

「そんなに前から?」

「今も好き」

「…名前」

「気にしないで、聞き流して?」


困ったように笑うビルは優しいからきっと聞き流さない。
困らせたい訳ではないけれど、口から勝手に零れ落ちた。
やっぱり困らせたいのかもしれない。
よく解らない感情のまま手を離して先に厨房に入る。
後から入ってきたビルはやっぱり困ったように笑っていた。




(20121219)
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