会議が終わって真っ先に立ち上がったその人を慌てて追い掛ける。
ホグワーツ在学中は余り話し掛けたりしなかった。
よくドラコに構っていたし、何より私はグリフィンドール。
「スネイプ先生!」
「…名字か。私はもう君の教師ではない筈だが?」
「あ、すみません。あの、ちょっと魔法薬の事で教えて頂きたい事があるんです」
スネイプ先生は片眉を上げて目だけで此方を見た。
これは話をし出しても良いのだろうか。
「あの、ドラゴンの火傷の痕に効く薬を作っているんです。でも上手くいかなくて」
「…材料を書いて梟に持たせろ。時間がある時に返事を出す」
それだけ言うとバサリとローブを翻してスネイプ先生は帰って行った。
呆然とした私は玄関ホールに残されたまま。
まさか材料を見て考えてくれるとは思わなかった。
じわじわ込み上げる嬉しさを噛み締める。
スネイプ先生は魔法薬に関しては素晴らしい才能を持った人だ。
きっとこれで何か良い方法が見つかるかもしれない。
「名前?どうしたの?急いで出て行ったから」
「あ、ビル。ちょっとスネイプ先生に質問があって」
スネイプ先生の言葉に少しビルは顔を顰めたけれど、そっかと言って微笑む。
夕食の為に厨房に戻る道を歩きながら魔法薬の話をすると安心したらしい。
ビルがスネイプ先生を好きではないのは知っているから、安心して貰えて良かった。
「そういえば、ジョージに聞いたわ。フラーと仲が良いみたいね」
「あ…うん。ジョージから、聞いたのか」
「うん」
ビルはフラーの名前に少しだけ気まずそうにした。
けれど、笑顔を向けると笑顔を返してくれる。
私を気にしてビルが幸せになれないのは嫌だ。
だから大丈夫だという意味を込めて良かったねという言葉を贈る。
「有難う」
「どう致しまして」
厨房の前まで来たのでそこで会話を打ち切った。
その日の夜中に厨房に降りて、そこで見えた光景に目を擦る。
シリウスが机に突っ伏して眠っていた。
側には空のワインの瓶が何本も転がっている。
どうやら全て一人で飲んで酔っ払って眠ったらしい。
溜息を吐いて側にあったブランケットをシリウスに掛ける。
ハリーの尋問が終わってからというもの、シリウスは塞ぎ込んでいた。
時には不機嫌で話をしようとせず、バックビークと部屋に隠っていたりする。
それをハリーが気にしてシリウスに気を遣っているのも何回も見た。
シリウスは余り屋敷の外へは出られないので不満が溜まっているのだろう。
魔法省がでっち上げたシリウスは闇陣営だという情報を信じる人が多い。
あのダンブルドア先生でさえ今は嘘吐きだと信じられている。
だからと言ってハリーに気を遣わせるのもどうかと思うけれど。
「名前?」
「あら、ハリー。どうしたの?眠れない?」
「まあ、そんなとこ」
「ココア淹れるわ」
ハリーは頷いて眠っているシリウスの向かい側に座った。
緑色の目がシリウスを困ったように見つめる。
ハリーはシリウスの事が気になっていたのだろう。
夕食の直後から一人で不機嫌にワインを飲んでいた。
ハリーの前にココアを置いてシリウスの隣に座る。
緑色の目はまだシリウスを見ていた。
「困るわよね、シリウス」
「え?」
「ハリーが気に病む必要はないわ。シリウスは少し大人にならなくちゃ」
「…何だか名前の方が年上みたいだね」
可笑しそうにハリーがクスッと笑う。
前にシリウスに見せて貰ったハリーの父親と目以外は瓜二つだ。
これではシリウスがハリーを父親と混同するのも無理はない。
性格までは知らないけれど、やはり似ていたりするのだろうか。
「名前は此処にずっと居るんでしょ?」
「うん。任務で出掛けたりしなければ此処に居るわ」
「シリウスの事、お願い」
余りにも真っ直ぐにお願いをするハリーに私も姿勢を正して頷いた。
少しはハリーの気持ちも考えてやるべきだ、とシリウスを突っつく。
けれど、唸るような声が出ただけだった。
(20121214)
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