「ハリーが尋問?」
「そうなの…名前が帰ってくる前にアーサーと出掛けて行ったわ」
ルーマニアから戻って聞いた言葉に私はくらりと眩暈がした。
ハリーが吸魂鬼に襲われた事も退学だと言われた事も。
魔法省はハリーとダンブルドア先生の事を目の上のたんこぶだと思っている。
そんな時にハリーが魔法を使ったとなれば全力で有罪判決を下すだろう。
そわそわと行ったり来たりを繰り返すシリウスの顔はとても険しい。
どうやらシリウスは一緒に行くのを止められたようだ。
「名前!お帰りなさい!ハリーの事聞いた?」
バタバタと足音がして厨房に入ってきたロンとハーマイオニー。
ハーマイオニーは心配で今にも倒れてしまいそうだ。
モリーさんも心配で仕方がない様子だったけれど昼食の準備をする事で落ち着く事にしたらしい。
ハリーが帰って来るのを待ちたかったけれど飛行機でクタクタだった私は自室に引っ込む。
結局シャロンとは少ししか会えなかったし、チャーリーは私が飛行機に乗るまで構い倒しだった。
チャーリーはビルの事になると少し私に甘過ぎると思う。
ルーマニアに来ても良いと言ってくれたけれど、大丈夫と笑顔を返してきた。
シャロンはビルに吠えメールを送りそうな剣幕でチャーリーと説得するのに大騒動。
なんだかんだとルーマニアに居る間は賑やかだった。
気配を感じて、ふ、と意識が浮上した。
けれどまだはっきりとはせず身体を動かす事も億劫。
はっきりしない視界で気配の正体を見る。
見えたそれは綺麗な赤毛だ。
「…ビル?」
「名前、寝ぼけてる?」
ビルとは違う声に仕方なく腕を動かして目を擦る。
しっかりした視界に映ったのは拗ねているジョージだった。
バチンと目が覚めて慌てて起き上がる。
「ジョージ?」
「悪かったな、お兄様じゃなくて」
「ごめんね。ちゃんと見えてなくて」
ジョージの短い赤毛に手を伸ばす。
もう頑張って手を伸ばさないと届かない。
「これ、名前の分」
「あ、有難う」
「食べないときっとママが心配するぜ」
「そうね」
ソファーに移動してモリーさんお手製の昼食を食べる。
ジョージは隣で何処かから見つけ出してきた私のレポートに夢中だ。
チラッと見えた内容からするに薬草学のレポートらしい。
「あ、ハリーはどうなった?」
「勿論無罪さ。ハーマイオニーはもう倒れる寸前だったな」
「まだハリーに会ってないわ。後で顔を見に行かなきゃ」
「俺とも久しぶりに会うのに」
「一週間ぶりじゃない」
そう言う割にはジョージの目はレポートの文字を追っている。
何のレポートかは知らないけれど、珍しい光景だ。
今年は最上級生だし、学校でもこうだと良いのだけど。
「名前、ビルの事本当に好きなんだな。俺の髪だけでビルと間違えるんだ」
「うん…そうね」
「フラー・デラクール覚えてるか?」
「覚えてるわよ。ボーバトンの代表選手だったもの」
「ビルが、個人授業してるんだ。英語の」
「…ふぅん」
それ以上は何も言う気になれず昼食をひたすら飲み込む。
ジョージは何か言いたそうにしながらも言葉が見つからないらしい。
普段は様々な言葉がポンポン飛び出してくるのに。
散々迷った挙げ句、ジョージは私に抱き付いてきた。
「食べにくいわ」
「…名前は平気なの?」
やっと出てきたジョージの言葉にフォークを置く。
回されている腕を外して距離を取って見えたのは泣きそうな顔。
抱き付く代わりとでも言うように両手がしっかりと握られた。
「ジョージが泣きそうな顔しなくて良いじゃない。それに、ビルには一ヶ月前に振られたわ」
「え?」
「ビルの事は今でも好きよ。でもビルが幸せならそれはそれで嬉しい」
「…本当に?」
泣きそうな顔のままのジョージの頬を両方摘む。
そのまま引っ張ると慌てて痛いと連呼する。
「ふふふ、両方真っ赤だわ」
「名前、酷いよ」
「心配してくれて有難う。でも私は大丈夫よ」
笑顔を浮かべるとジョージの顔がくしゃりと歪んだ。
私の肩に額を乗せたのでその先は解らないけれど、泣いてはいない。
手を伸ばしてあやすように赤毛を撫でる。
ジョージは本当に優しい子だ。
(20121214)
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