んー…と伸びをしてから私はそっと家を出た。
荷物を全て持って生まれ育った家を見上げる。
戻って来られるか解らないので目に焼き付けておく。


姿現しをした先はダンブルドア先生に言われた通りの場所。
ビルが私の到着を待っていたらしく、駆け寄って来た。


「やあ、名前待ってたよ」

「他の人達は?」

「今日は居ないんだ。これを覚えて」


出された羊皮紙に書かれた住所を覚えるとビルがそれを燃やす。
そしてビルに手を引かれて連れて行かれた先は古い屋敷のようだった。
キョロキョロと辺りを見回しながら奥へと進む。
ビルが入っていったのは厨房で、二人分の話し声が聞こえる。
手を引かれるままに厨房に入ると四つの目が此方を見た。


「シリウスにルーピン先生!」

「やあ、久しぶりだね名前」

「お、来たか」


にっこり笑う二人を見てビルを見ると背中を押される。
進んでルーピン先生の隣に座ると私の隣にビルが座った。


「此処が不死鳥の騎士団の本部ですか?」

「うん。シリウスの家だよ」

「シリウスの?」

「こんなのでもブラック家の生き残りだからね」

「おいリーマス、こんなのって何だ」

「元犯罪者?」


にっこりとそう言い放つルーピン先生に驚いてまたビルを見る。
ビルは苦笑いをして小さな声で大丈夫、と呟いた。
シリウスは拗ねてしまったようで目の前にあったバタービールを流し込んでいる。


「ルーピン先生」

「名前、私はもう先生じゃないよ。リーマスで良い」

「え…あ、はい。リーマス」

「私も此処に住むからね、シリウスに何かされそうになったらいつでも言うんだよ」


私の頭を撫でながら言うリーマスはどうやら実はなかなか腹黒いらしい。
ホグワーツに居る時には全く気付かなかった。
それともシリウスという親友が居るからだろうか。
怒って立ち上がったシリウスにお座りと言い放ったリーマス。
リーマスには逆らわないようにしようと固く決心した。


「名前、部屋に案内するよ」

「あ、大丈夫です。僕が案内します」

「そう?じゃあ頼んだよビル」

「はい。おいで名前」


手招きされてビルの後ろを歩いていたらまた後ろから黒いお言葉が聞こえてくる。
クスクス笑うビルが立ち止まったので思い切りぶつかってしまった。


「此処では静かにしなきゃいけないよ」

「どうして?」

「肖像画が起きるんだ。行こう」


静かに、と言われた通りなるべく物音を立てないように歩く。
どうやら此処は相当長い間空き家だったらしく、時折変な音が聞こえる。
きっと色々な魔法生物が住み着いているんだろう。
装飾もなかなか良い趣味だとは言えなかった。
階段が続いているのが見えて、屋敷が広い事が窺える。


「此処だよ。一応掃除はしてあるから大丈夫だと思うけど」


ビルに言われて入った部屋は確かに綺麗だと思った。
荷物を置くと何処かからチェシャーが飛んできて怒ったように鳴く。
チェシャーはビルの所に居たのでビルが連れてきたのだろう。
何故私に怒りを向けられているのかはさっぱりだ。


「チェシャーなんだけど、名前にあげるよ」

「え?だ、駄目よ。ビルの梟が居なくなっちゃう」

「卒業祝いだよ。それに僕なら大丈夫」


チェシャーを見ると真っ直ぐ私を見つめ返している。
翼を撫でると今度は何かを訴えるように鳴く。
ビルにお礼を言うと満足したらしくまた何処かへ飛んで行った。
ビルは最初からそのつもりでチェシャーを買ったのだろうか。


「それと、この間の事だけど…名前の事は大事だよ」

「…うん」

「だけど、やっぱり妹、なんだ」


小さく小さくビルがごめん、と呟く。
予想出来ていた返事だった。
大事に思っていてくれるだけで良いじゃないか。
私の一番で憧れはどうあったってビルなんだ。


「これからも、同じように仲良くしてくれる?」

「勿論」

「有難う。私少し部屋を片付けなくちゃ」

「解った。厨房に居るから、困った事があったら呼んで」


くしゃり、と私の頭を撫でたビルに私はちゃんと笑顔を向けていられただろうか。




(20121210)
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