コツンと机を叩く音に顔を上げるといつもの様にドラコが立っていた。
ドラコが移動しようと言うので素直に後ろを着いて行く。
中庭まで来るとドラコが立ち止まったので私も足を止めた。


「卒業、するのか」

「うん」


以前にも言われた言葉を言ってドラコは俯く。
手を引いてベンチにドラコを座らせる。
思えば以前に比べドラコはかなり成長したと思う。
少なくとも私の前では穢れた血だなんて言わなくなった。
それに嘲笑ではなくふんわりと優しく笑う。
背だって伸びて私と同じ位になっている。
もう少ししたら恐らく追い抜かれてしまうだろう。
彷徨っていた薄い青色の瞳が私を見る。


「僕を、忘れるなよ」

「当たり前じゃない。ドラコも、格好悪い事は辞めるのよ」

「…気が向いたら辞めてやる」


可愛くない事を言うドラコを抱き締める。
抵抗もなく大人しく腕に収まっているドラコ。
きっと彼はいつか解ってくれる。




スーツケースを引っ張りながら色々な事を思い出していた。
ビルに追いつきたい一心で過ごしてきた七年間。
特急の中では久しぶりにシャロンと二人きりで座った。
そういえば一番最初の特急はパーシーと二人きりだったっけ。


「名前とお別れなんて寂しいわ」

「ふふふ、また会えるわ」

「勿論よ。ビルだろうとジョージだろうと邪魔させないんだから」


意気込んでいるシャロンは無事チャーリーと同じ研究所に行く事になった。
後から聞いた話だけれど第一の課題の時には既に決まっていたらしい。
ホームでシャロンと別れると一人で両親の元へと急ぐ。




待ち合わせのカフェに行くと既にビルが来ていた。
注文した紅茶を一口飲むと変に緊張が増す。


「急いで来た?」

「うん。電車が少し遅れてて」

「そっか。久しぶりの家はどう?」

「お母さんが張り切っちゃって。毎日買い物に付き合わされてるわ」


面白そうに笑うビルを見てドキ、と胸が鳴る。
やっぱり、ビルはかっこいい。


「そうそう、僕こっちに戻ってくるから」

「え?」

「事務職に異動願い出したんだ」

「そうなの」


こんな時だからね、と呟いた言葉に別の意味でドキッとした。
チャーリーとシャロンはそのままルーマニアに居るらしい。
ビルが紅茶を飲んでそれで?と首を傾げた。
遂に来た、と私はテーブルの下で手を握る。


「あの、ね…私、ビルが好きなの」


思いの外すらりと出た言葉に自分自身が一番驚く。
ビルの表情はとても見れないので解らないけれど。
七年間ずっとずっと抱えていた想い。
ジョージに告白された時、まるで自分だと思った。
ビルにとってきっと私は妹のような物だと思っていると思う。
だから、ジョージの気持ちがよく解って心が痛い。


向かい側でカチャリ、とカップが音を立てる。


「どう、したら良いかな」

「あ、あの、ね、伝えたかっただけなの」

「…嬉しいよ」

「え?」

「有難う。少し、考えても良い?」


ビルの言葉に頷いた。




(20121206)
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