黒い大きな犬に着いて行った先は洞窟だった。
黒い犬が人間の姿に戻るのを見て溜息を吐く。
実際に会うのは二度目だったけれど、手紙のやり取りはしていた。
丁寧な言葉を使うな、やらビルとはどうなんだ、という話題ばかりだったけれど。
ハリーの事は直接ハリーからの手紙で知らせて貰えるらしい。
頼まれていた食べ物を手渡すと夢中で食べ始める。
差し出したオレンジジュースを飲み干して息を吐した。
空っぽになったゴブレットにオレンジジュースを注ぐ。
「久しぶりの食事だ」
「シリウス、こんな所に居たらハリーが心配するわ」
「大丈夫。俺が此処に居るのは今のところダンブルドアと名前しか知らない」
そう言いながらチキンの骨をバックビークに放り投げる。
バックビークはそれを嬉しそうに食べ始めた。
持ってきた食べ物が減っていくのを見ながら私は洞窟内を杖を振って回る。
屋外だから仕方がないのだけれど清潔とは言えない。
そう広くない洞窟内をあちこち掃除しながら回ってシリウスを見る。
以前はちゃんとした服装だったのに今はボロボロのローブだ。
髪も髭も伸び放題で頬は痩けて骸骨のようにも見える。
こんな事だろうとホグズミードで買ってきた服を差し出す。
「あ?」
「着替えて。今シャワー浴びられるようにするから」
「…一緒に入るか?」
「入りません」
チキンを片手にニヤリと笑ったシリウスに背を向けて準備を始める。
シャワーを浴びて髭を剃り髪の毛も切り揃えた。
頬が痩けてさえ居なければシリウスはとても端正な顔立ちなのだろう。
という事はきっと学生時代は相当モテたに違いない。
先程の食べかけを食べ始めたシリウスを見ながら一人頷く。
「ハリーは元気か?」
「うん。今日もホグズミードに居る筈だけど…シリウス、ルーピン先生とスネイプ先生と同級生なのよね」
「ああ。それがどうした?」
スネイプという単語に嫌そうな顔をしたシリウスを無視して観察する。
なんというか、ルーピン先生と同級生とは思えない。
それは多分シリウスの纏う雰囲気というか言葉遣いというか。
ルーピン先生はもっと落ち着いている気がする。
「いえ、どうもしません」
「何だよ」
「いーえ。それより、城まで試合観に行ったりしないわよね?」
「ああ、行くつもりだ。色々と、怪しいからな」
頭を抱えたくなって実際に抱えてしまった。
この人、此処に居るんだと知られたくなかったんじゃないのか。
色々言いたい事はあるけれど全て飲み込んで溜息を吐いた。
私に向けて一度だけ吠えて洞窟に戻って行く黒犬。
誰にも見つからなければ良いのだけど。
「名前?」
呼ばれた方向に振り向くと悪戯グッズを抱えたフレッドとジョージが居た。
ニコニコしながら近付いてくるフレッドと対照的に気まずそうな顔をしているジョージ。
フレッドの腕から零れ落ちそうな悪戯グッズを一つ取るとカラカラと音を立て始める。
「何、これ」
「まあ、気にするな。名前一人か?」
「うん。シャロンはハグリッドの手伝い」
「尻尾爆発スクリュート?」
顔を顰めるフレッドはきっとスクリュートを思い浮かべているのだろう。
確かにあれは少し、というかかなり大変な事は確かだ。
「二人は城に戻るの?」
「ああ、買いたい物は買ったし」
「そう。私も戻るから、少し持つわよ」
フレッドから少しだけ悪戯グッズを受け取る。
相変わらず気まずそうにオロオロするジョージの腕からも少し悪戯グッズを貰う。
「ジョージ、私どれがどれか解らないから危ないのがあったら教えてね」
「え…あ、うん」
パッと顔が明るくなるジョージに首を傾げるフレッド。
何?と聞かれたけれどあの夜の事はジョージと私の秘密だ。
(20121206)
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