苛々した気分のまま夕食を食べる気にもならず、談話室に戻った。
暖炉の前で気を落ち着かせる為にドラコから借りた本を捲る。
けれど全く文字が頭に入って来なくて、結局は諦めて本を閉じた。
その時、談話室の扉が開く音がして誰かが入ってくる。
誰かと会話をする気分でもないので振り向かずにいたのにその誰かは隣に腰を下ろす。
ほんのりした火薬の臭いで確かめなくても誰かが解ってしまった。


「ジョージ、私今話をする気分じゃないのよ」

「知ってる」

「放っておいて」


ただただ真っ直ぐ暖炉で燃える炎を見つめる。
隣から全く動こうとしないジョージは今は無視だ。
恐らく心配してくれたのだと思うのだけど今の私は精神的に余裕がない。


私の中でムーディ先生への苛立ちがいつまでも燻っている。
見た目に怪我はなかったけれどドラコは床にぶつけられたのだ。
例えドラコが悪いとしてもあんな事はしてはいけない。
苛々としている気持ちがまた増してきて私は溜息を吐いた。


「名前、ちょっと付き合わないか?」

「何処に?」

「うん、ちょっと」


ジョージが杖を振ると私の持ち物がパッと消える。
空いた手を掴まれて歩き出すジョージに着いて行く。
私より頭一つ分大きくなった後ろ姿はビルと重なる。


ビルだったらあれを見てどう思うだろう。
ビルが居たらこの苛立ちも消え去るのだろうか。
昨日の朝別れたばかりなのに、もう会いたいだなんて。
段々下がっていく頭は下がる所まで下がって自分の足しか見えない。


「名前、乗って」

「え?」

「ほら、早く」


いつの間にかジョージは箒に跨っていて、早く乗れと促している。
ぼんやりしていたら腕を引かれてそのまま一気に浮上した。
いきなりの事で慌ててジョージの体に腕を回す。
私の反射神経が使い物にならない物だったら今頃落ちていた。


何も言わずにジョージは校庭を自在に飛び回る。
湖の上まで来ると水辺だからか今までより風が冷たい。
スッと通り抜けていく風が苛立った熱を冷ましていくようだった。
ぐるぐる飛び回ってかなり高い位置でジョージは箒を止める。


「名前、気分転換になった?」

「ええ、なったわ」

「そっか。良かった」


首だけで振り返ったジョージがにっこりと笑う。
初めてジョージの後ろに乗ったけれど、流石クィディッチ選手だ。
そういえば、チャーリーの後ろはよく乗せて貰ったっけ。


「マルフォイの事、大広間で皆が話してた」

「そう」

「名前、あいつはやっぱりスリザリンだよ。ハリーに後ろから攻撃しようとしたらしいぜ」


きっとそれは私が大広間に着く前の出来事だろう。
確かにそれだけ聞けば悪いのは完全にドラコだ。
けれどあの子は無闇に呪いをかける子ではない。
元は恐らくドラコがロン達をからかい始めたのだろうけれど。


「ねえ、ジョージ…ドラコはね、本当は優しい子なのよ」

「名前には、だろ」

「本当なのよ。あまり…ドラコを嫌わないで」


目の前の背中に額をくっつけて呟く。
ジョージの耳にはちゃんと届いただろうか。
返事はないので解らない。
けれど、本当にドラコは優しい子なのだ。


「戻ろう」


そう呟いたジョージの声はいつも通り。




(20121204)
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