ホグワーツ特急が後ろにある事も、監督生の車両に行かなければならない事も解っている。
けれどいつだってビルと別れる時私は少しだけ駄々をこねたい気分になるのだ。
皆がそれぞれ別れの挨拶を交わしているのを聞きながら隣に立つビルを盗み見る。
しかしバッチリ目が合ってにっこり微笑むので私も笑顔を返す。
「今年はきっと楽しい一年になるよ」
「それって、パーシーの言ってた事?」
「うん」
「教えては貰えないのよね?」
「学校に行けば解るよ」
くしゃり、と頭を撫でるので少し面白くない気分になる。
けれど宥めるように頭を撫でるので直ぐに吹き飛んでしまった。
「名前は首席だし、少し忙しくなるかもしれないね」
「そんなに大変?」
「うーん…少し大変かな。無理しないようにね」
頷いてさよならの挨拶をして、皆と一緒に特急に乗り込む。
ビル達が姿くらましするまで私はホームを見ていた。
監督生の車両に入ると改めて自分が七年生だと思い知る。
いつも居たパーシーが居なくて、もう一人の首席はレイブンクローの知らない人だった。
何気なく社内を見回すと、見覚えのある顔が見えて静かにその隣に座る。
すると彼は此方を向いて私の顔を見ると驚きを顔に浮かべた。
「ハイ、ディゴリー」
「名字…あ、首席になったんだってね」
「そうなの。私に勤まるか解らないけど、でも嬉しいのよ」
ビルと同じだから、という言葉は胸に秘める。
ディゴリーはにっこり笑っておめでとうと言ってくれた。
シャロンを探して車内をうろうろするのはもういつもの事。
多分フレッドとジョージも一緒に居る筈。
「重要事項は話さないのだろう」
聞こえてきた声の方を向くとお馴染みの二人を連れたドラコの姿。
多分、ああいう時のドラコはロン達を前にした時。
少し考えて思い切り抱きつくと驚いたロン達の顔が見えた。
「だ、誰だっ…名前?」
「久しぶりね、ドラコ。クィディッチワールドカップの時は話せなかったもの。あら、今日は血色が良いのね」
「何言って…行くぞ!」
ドラコに手を引かれ、ロン達に手を振りながら通路に出る。
後ろで力任せにドアが閉められる音とガラスが割れる音がした。
クラッブとゴイルはドラコが合図をすると隣のコンパートメントに入っていく。
そういえば私はあの二人の声を聞いた事があっただろうか。
「何を話していたの?」
「別に大した事じゃない…それより、僕に話しかけるのは辞めたんじゃなかったのか」
「それは、先学期の終わりの事を言ってる?」
クィディッチの試合以降、忙しかった事もあってドラコに会っていなかった。
どうやら私が思っていたより遥かに気にしていたらしく、ふいっと顔を逸らされる。
けれど手は掴まれたままで寧ろ離さないと言うかのように力が強くなった。
空いている方の手で頭を撫でると、薄い青色の目が此方を向く。
「馬鹿ね、私がいつそんな事を言ったのよ」
「…違うなら構わない」
「ごめんね」
「いや、良い…ちょっと待っててくれ」
ドラコは満足したような笑みを浮かべてコンパートメントに入っていく。
暫くして出て来たドラコは片手に本を持っていた。
首を傾げていると滅多に見せない柔らかい笑みを浮かべる。
差し出された本のタイトルを見る限り魔法薬と薬草の本のようだ。
「貸す。役に立つだろう」
「え?」
「ホグワーツには置いていないと父上に確認は取った。返すのはいつでも良い」
「良いの?」
「要らないのか?」
「有難うドラコ」
本を差し出している腕ごと抱き締める。
今日はやっぱりドラコの顔は血色が良いらしい。
(20121204)
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