ビルとロンのチェスを眺めながらモリーさんが買ってきてくれた教科書を捲っていたらチェシャーが飛び込んで来た。
雨に濡れてずぶ濡れだったけれど、手紙は全く濡れていないという事は防水呪文がかけられているのだろう。
杖を振ってずぶ濡れのチェシャーとチェシャーによって濡れた教科書を乾かすと止まり木に飛んでいった。


手紙を読んで私は驚きと信じられない気持ちでもう一度手紙を読み直す。
けれど何度読んでもやはり差出人の名前はシリウス・ブラックと書いてある。
手配書で顔は知っていたけれど彼には会った事はない。
確かにピーター・ペティグリューを捕まえたのは私だけれどそれも偶然だ。
新聞には私の事は書いてなかったから、ダンブルドア先生に聞いたのだろうか。
お礼の言葉が並んでいる手紙を再び読み直して思わず唸ってしまった。


「変な手紙だった?」


ビルの問いかけにどうするか悩んだ末手紙を渡す。
一応ビルにはシリウス・ブラックの事は話してある。
それに新聞で読んで知っているのは間違いない。
ビルは手紙を読み終えるとバッと顔を上げた。


「名前、これ今日だろう?」

「やっぱり、今日よね」


手紙の最後の方、お礼がしたいからと日時と場所が書いてある。
腕時計を見て私は時間があまりない事を知った。




ダイアゴン横丁の隅っこにあるあまり知られていない感じのカフェ。
ビルと顔を見合わせてから思い切って扉を開けた。
何かあった時の為にとビルがついて来てくれたのは心強い。
店内を見渡すと隅っこに一人しかお客さんが居なかった。
机の上に目印の薔薇の花があるのできっと彼だろう。


「あの、ブラックさん?」


控え目に声をかけると彼は頷いて仕草だけで座るよう促す。
ビルと並んで座り、紅茶を注文して改めて彼を見る。
恐らく変身術なのだろう、髪の毛が綺麗なブロンドだ。
ハリーから聞いた彼の特徴は黒髪だった筈。
紅茶が運ばれて店員さんが奥に引っ込んだと思ったら彼が杖を振る。


「名前・名字?」

「はい」

「こっちは…?」

「付き添いです。ビル・ウィーズリーです」

「ウィーズリー…そうか」


ビルに対して警戒していたようだったけれど、ウィーズリーの名前に警戒を解いたらしい。
やはりウィーズリーは純血なのだな、とぼんやり思った。


「急に呼び出したりして悪い。と言っても手紙を書いたのは大分前なんだが」

「あ、いえ、大丈夫です」

「お礼が言いたいのと、会ってみたくてな」


ブラックさんは照れたように笑って珈琲を口に運ぶ。
それを見て私も紅茶を一口飲んだけれどお世辞にも美味しいとは思えなかった。


「まだ自由に出歩けたりする訳じゃねえけど、俺は無実を証明出来た。感謝してる」

「あの、ブラックさん、私そんな感謝されるような事は」

「あいつを…ピーターを捕まえてくれただろ?」

「それはそうですけど、偶然で」

「それでも俺にとっちゃ恩人だ」


私は本当に彼に感謝されるような事したわけじゃない。
知らなかったから、ロンのペットだったから。
困って隣のビルを見上げると微笑んで頷いた。


「あの、無実になって、良かったです。ブラックさん」

「シリウス」

「え?」

「そのブラックさんって辞めてくれ。シリウスで良い」

「あ、はい」

「この先、何か困ったりしたら俺に言ってくれ。何でも力になる」


シリウスはそう言って私が頷くのを確認すると支払いを済ませて出て行く。
呆然とその背中を見送って紅茶を一口飲む。


「本当に名前にお礼言いに来たんだね、あの人」

「そうみたい」

「せっかくだから少し買い物して帰ろうか。チェシャーのご飯買わなきゃ」


頷いてカフェを出ると雨は止んでいた。




(20121202)
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