競技場の外は凄い人の流れであちこちからレプラコーンの笑い声がする。
前を歩いているビルの服を思わず掴んでしまわなければはぐれてしまいそうだ。


「名前、手を繋ごう。そうすればはぐれないよ」


差し出された手に自分の手を重ねて歩く。
歩きながらキョロキョロと辺りを見渡すとシャロンがいた。
両親とひたすら何かを話しながら喜んでいる。
後でチャーリーに教えてあげよう。


テントに戻っても周りが騒がしく、レプラコーンのランタンの灯りが行ったり来たりしていて夜だというのに明るい。
フレッドとジョージが歌って踊るのを見ているとビルがココアを持ってきてくれた。
受け取って一口飲むと叫んでいた喉に少しだけ沁みて痛い。
そういえばさっきビルは何を言ったのだろう、と尋ねようとしたけれどそれは叶わなかった。


ジニーとハーマイオニーが眠ったのを確認してソファーで自分の手を見つめる。
いつもはぐれないようにと差し出してくれる大きなビルの手。
いつまでこういう風に無条件に差し出してくれるだろう。
ぼんやりそんな事を考えていたら突然外が静かになって叫び声がした。
杖を掴んで外を覗こうとするとアーサーさんが入ってきてぶつかりそうになる。


「名前、ジニーとハーマイオニーを起こして外に来るんだ。杖を持って、急ぎなさい!」


アーサーさんのただならぬ様子に慌てて二人を起こしてコートを渡す。
四人で外に出ると叫び声の原因が解り、立ち止まった私にビルがぶつかった。
ビルは袖を捲り上げて杖を構えている。


「ビル」

「名前、皆と森に入るんだ。後で迎えに行くから」

「でも」

「名前しか魔法が使えないんだ。皆を守って欲しい。良いね?」

「…解ったわ」

「良い子だ」


くしゃり、と頭を撫でられて走り出すビルの背中に気を付けてと叫んだ。
黒いローブに仮面の魔法使いを見て杖をしっかり握って振り向くとフレッドとジョージに向かって頷く。
フレッドがジニーの手を引っ張って走るのを追いかける。
走っている途中で手を伸ばしてジョージの手をしっかり捕まえた。
ビル、チャーリー、パーシー、アーサーさんが無事でありますように。


森に入っても人が沢山居て気を付けないとはぐれてしまいそうだった。
奥へ進んでいる途中でロン、ハリー、ハーマイオニーとはぐれてしまったらしい。
少し戻って探していたフレッドが帰ってきて首を横に振る。
私は心臓を誰かに握られてしまったような感覚に襲われた。


「私のせいだわ。貴方達と付き添い姿くらましをしても良いけど、私一人じゃ上手くいくか解らないし…三人が無事だと良いんだけど」

「名前、落ち着け。あいつらなら大丈夫さ。きっと大丈夫」

「ジョージ」


ジョージが力強く言って私の手をしっかりと握る。
それだけで少しだけ冷静になれて、深く息を吐く。
その時バシンと音がして目の前にビルが現れた。
ホッとしたのも束の間、ビルの腕から出血しているのが見える
けれど口を開く前に片手で抱き締められた。


「名前、無事で良かった」


耳元でそう聞こえ、離れたビルはジニーを抱き締めてフレッドとジョージの肩を叩く。
戻ろう、と言ったビルの腕を掴んで杖を振って出血を止める。
完全に治してあげられる呪文が今の私には思い出せなかった。
それでもお礼を言ってくれたビルに笑顔を返す。




(20121202)
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