シリウス・ブラックが城に入り込んで再び逃げた。
その日から城の警備が厳しくなり、私も忙しさが増す。
授業に課題、チャーリーの為の薬の事、ハーマイオニーの手伝い、姿現しの試験。
とにかくやる事が沢山で殆どの時間を図書館で過ごした。


いつの間にかロン達は仲直りしたらしい。
仲直りした事にホッとして私は本格的に薬を作り始めた。
なかなか時間が取れなかった上に試しようがない。
ドラゴンの火傷の痕なんて私には一つも無いのだ。
一応作った物をチャーリーに送ってはみたけれど返事はまだ来ない。
溜息を吐くと横に座っていたシャロンにのぞき込まれる。


「名前、頑張りすぎじゃない?」

「大丈夫よ」

「頑張りすぎるとビルに怒られるわよ」

「…それは、嫌だけど」


しょうがない、とシャロンが笑う気配がした。
オレンジジュースを飲み干して席を立つ。
先に戻ると告げるとシャロンはひらひらと手を振った。


大広間の出入口まで来て後ろから名前を呼ばれる。
振り返るとドラコが立っていた。
今私と話をしても大丈夫なのだろうか。
今度のクィディッチの試合はグリフィンドール対スリザリンだ。


「どうしたの?」

「いや…用は、特にないんだが」

「珍しいわね」


手を伸ばしかけて、辞める。
人の少ない廊下や図書館ならともかく此処は大広間。
グリフィンドール生もスリザリン生も居る。
持ち上げ掛けた手をバレないうちに静かに下ろす。


「ドラコ、私に否定されたくなかったらそれに見合う行動をしなさいって言ったわよね?」

「ああ…言った、な」

「頬は大丈夫なの?」

「見ていたのか」


ある日赤くなっていたた頬を撫でる。
誰にやられたかは知らないけれど、恐らくはそういう事だろう。
気まずそうに俯いたドラコはギュッと拳を握る。
今はただ青白い頬がピクリと動く。


「今度の試合、頑張ってね」

「お前…僕の応援をしても良いのか?」

「あら、私はスリザリンじゃなくてドラコの応援をするんだもの。許して貰わなきゃ困るわ」


大広間という人の目があるからか、少し素っ気なく頷くドラコと別れて歩き出す。
外は雨が降り始めていて、思わず足が止まった。
ボケッと立ってなんとなく外を見つめる。
確かに色々詰まっていたのは間違いない。
疲れているのも間違いなくて、少し休んでも良いかもしれないのも確か。
一応チャーリーの薬は返事待ちだし、課題はもう終わっている。


「ビルに、会いたいなぁ」


ボソッと呟いた私の言葉は誰にも拾われない。
ポッと浮かんできた気持ちが消えなくて困ってしまう。
膨らんでしまいそうな気持ちに慌てて蓋をする。
このままでは寂しくて切なくなってしまう。
窓ガラスに額を押し付けて溜息を吐く。


「あの、大丈夫?」

「え?」


聞こえた声の方を見るとカナリアイエローに黒のネクタイ。
灰色の瞳に背の高い彼には見覚えがある。
確か彼は一つ下のハッフルパフのシーカーだ。
そういえば、監督生だった気がする。
確か名前はセドリック・ディゴリー。
胸に光る二つのバッチを見て思い出すのは太陽のように笑う人。


「あ、体調が悪いのかと思って。大丈夫なら良いんだけど」

「有難う。少し考え事をしていただけなの」

「そっか、良かった」


安心したように笑った彼は確かに噂通り端正な顔立ちだ。
噂にもなるくらいだ、これはかなりモテるのだろう。
それじゃあ、と言って大広間に向かう背中を見つめる。
見えなくなった所で私もグリフィンドール棟へと向かう。




(20121127)
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