ジニーが寝てしまったので私はブランケットを巻いて階段の踊り場で本を読む。
因みにこのブランケットは去年ビルがクリスマスプレゼントでくれたブランケットだ。
月の明かりだけだと少し読みにくいけれど、そんなに苦にはならない程今日は明るい。
偶にフレッドとジョージの部屋から爆発音が聞こえる。
きっとまた何か悪戯道具を作っているのだろう。


ギシ、と階段が軋む音がして顔を上げる。
けれど人影が見えないので上の方だろうか。
気にしない事にして再び文字を追う事に集中する。
しかし、身近で再びギシ、と音が鳴った。


「名前、なんでこんな所で本読んでるの?」

「あ、ビル」

「風邪酷くなるだろ?」


ビルが私の隣に座って私の額に手を当てる。
いきなりで驚いてしまった私の手から本が滑り落ちた。
慌てて拾おうと手を伸ばしたけれど大きな手が伸びる。
手を伸ばした拍子に体に巻いていたブランケットがずり落ちた。
本を拾ってくれたビルが更に私のブランケットを巻き直してくれる。


「本を読むなら僕の部屋においで」

「え?でもビルは寝るんじゃ…」

「まだ寝ないよ。ちょっとやる事があるからね」


だからおいで、と手を差し出されたらその手を取ってしまう。
ビルの部屋に入ると机の上に何枚か羊皮紙が置いてあった。
もしかしたら仕事の書類じゃないだろうか。
邪魔になるのでは、とビルを見上げると微笑みを返された。
ビルが杖を振ると椅子が一脚現れ、それにクッションが乗せられる。


「どうぞ」

「あ、有難う」


私が座ったのを確認してビルは机に向かった。
本を開いて読みかけのページを見つける。
読み始めてしまえばきっと集中して読めるのだけど、どうしてもチラチラ見たくなってしまう。
ポニーテールにされた長い髪は綺麗な赤毛で、私よりも綺麗に見える。
文字を書いている振動か牙のイヤリングがゆらゆらと揺れた。
今、私は幸せだなぁと思ったら自然に緩む顔を隠すように本に意識を戻す。
私はビルと一緒に居る時間が一番好きだ。


読み終わった本を静かに閉じる。
音は鳴らなかったと思うのだけど、ビルが振り向いた。


「読み終わった?」

「うん」

「じゃあ、少し休憩に付き合ってくれる?」

「勿論!」


ビルが杖を振るとココアが二人分現れる。
私は椅子をビルの近くまで持って行って座り直す。ふわりとココアの甘い香りが漂う。


「ビルは、ずっとエジプトで働くの?」

「今のところはね。ゴブリンは確かにとっつきにくいけど、やり甲斐はあるよ」

「確かに、やり甲斐はありそうだけど…私は、まだ決まらなくて」

「ゆっくり決めたら良いよ」


頷く事で会話を中断してココアを飲む。
一度、将来の道として呪い破りを考えた事はあった。
それはビルが居るからという理由からなのだけど。
魔法省はパーシーから散々話を聞いていたので考えていない。


「焦ってる?」

「少し。シャロンはもう行きたい所が決まってるの」


あぁ、と頷いたビルはココアを口に運ぶ。
シャロンはマクゴナガル先生にもう伝えてあると言っていた。
チャーリーと同じ研究所について反対されなかったらしい。
問題は両親の説得かな、と笑っていた顔を思い出す。


「焦らなくて大丈夫。まだ名前は六年生だから」

「…来年も決まらなかったら?」

「僕がとことん相談に乗るよ」

「だって、ビルはエジプトでしょう?」

「エジプトに居ても話せるようには出来る」


微笑んだビルにドキドキが再開し始める。
誤魔化すようにカップを両手で包み込んで口に運ぶ。




(20121124)
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