パーシーが張り切ってあちこちお喋りを辞めさせて回っているのをぼんやりと眺める。
シリウス・ブラックが侵入したとあればお喋りしたくもなるだろう。
けれど私が考えているのはビルとジョージの事。
ハロウィンのパーティーではジョージはいつも通りのジョージ。
レディの肖像画の前でもほぼ反射的に私の手を握っていた。
こういう時、チャーリーが居てくれたら良いのに。
昔からチャーリーがよく相談に乗ってくれた。
無性にホグワーツを飛び出してルーマニアに行きたい気分になる。


ふと視線を寝袋の方に落とすと少し離れた場所にフレッドとジョージが居た。
シャロンとジニーも一緒らしく、仲良く眠っている。
小さく溜息を吐いて私は扉の方へと向き直った。
隣にふわふわと近寄って来たのはグリフィンドールのゴースト。
いけないいけないとビルとジョージの事を頭から追い出す。
するとある一つの疑問が浮かんできた。


「ニック」

「はい、なんでしょう?」

「シリウス・ブラックは、ホグワーツの生徒だった?」

「左様。彼はグリフィンドールの生徒でしたよ。ブラック家の中で唯一のグリフィンドールでしょう。代々スリザリンの家系ですからね」

「どうしてグリフィンドールに?」

「シリウス・ブラックは純血主義を嫌っていたんだよ」


いきなり聞こえた別の声に驚いて振り向くと、ルーピン先生だった。
ルーピン先生はとても人気で私もお気に入りの授業の一つ。


「ルーピン先生は、シリウス・ブラックを知っているんですか?」

「知っているよ。でもそれはまた今度にしよう。名前、一度君と話してみたかったからね」


見回りがあるから、と柔らかな微笑みを浮かべて廊下へと消えていく。
私は少しだけルーピン先生が素敵だと騒ぎ立てる女の子達の気持ちが解った気がした。




欠伸をかみ殺して私は目の前の扉をノックする。
中からどうぞという声が聞こえて中に入るとルーピン先生がちょうど紅茶を淹れていた。
示された椅子に座ると紅茶が差し出され、お礼を言う漂ってくる良い香り。
ふとルーピン先生を見ると角砂糖が沢山入っていくところだった。
どうやらルーピン先生は甘党らしい。


「クッキーしかなくてね。クッキーで良いかい?」

「あ、はい」


差し出されたクッキーを一つかじると蜂蜜の味がした。
部屋の隅でガタガタと箱が揺れている。
恐らく授業で使う生物が入っているのだろう。


「シリウス・ブラックの話だったね」

「はい。先生は、ご存知なんですか?」

「同級生だった。彼は…そうだね、純血主義を嫌っていたから、信じられないよ」


そう言ってルーピン先生は手の中のカップを見つめる。
三年生の時に私はザッと過去の新聞を読んだ。
その中にシリウス・ブラックの名前を見た記憶がある。
それに最近では皆がその事を口にしていたから記憶に新しい。


「先生、シリウス・ブラックは、ハリーを狙っているんでしょうか」

「…そうだろうね。君は偶にハリー達の課題を手伝っているね?」

「え?あ…はい。あの、すみません」

「責めているわけじゃないよ」


クスクスと可笑しそうに笑うルーピン先生は紅茶を注ぐ。
よく見ると先生の手や顔には小さな傷が幾つもある。
ホグワーツに来る前はそんなに危険な仕事をしていたのだろうか。


「君の守護霊は鼬らしいね。シャロンが話してくれたよ」

「そうなんですか?」

「いつか見せて貰える時が来れば良いんだけどね」


そう言ってルーピン先生はふんわりと笑った。




(20121117)
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