ハロウィンの日、テンションの高いシャロンに朝一でキャンディーを渡した。
その日は談話室でも大広間でも廊下でもトリック・オア・トリートの掛け合い。
沢山キャンディーを用意しておいたのにお昼には空っぽになってしまった。
朝からビルにもチャーリーにもパーシーにも全く会えず。
姿すらも見なかったのでもしかしたら同じ様な事になっているのかもしれない。
お昼に大広間で仕入れたクッキーもキャンディーもあっという間に消えていった。
ホグワーツのハロウィンは少しだけ恐い。


「名前、夕食の前に一度戻りましょう」

「私図書館に行って本を返さなくちゃ」

「そう。じゃあまた後でね」


シャロンと別れて図書館までの道程を歩く。
薄暗くなってきた外を眺めていたら今日初めて見る赤毛。
ビルの後ろ姿を見て声を掛けようとしたけれど一人ではなかった。
私は見た事の無いレイブンクローの上級生。
金色の髪が薄暗い中でも目立っている。
聞こうと思った訳ではなく聞こえてしまった。


「私、貴方の事が好きなの」


此処に居てはマズいと思い早足でそこを離れる。
ビルがモテるのはあちこちで聞いて知っていた。
それこそ、同じ学年の子にも何人か居る。
けれどああいう場面は初めて見た。
早足のせいじゃないドキドキで心臓が煩い。




図書館で本を返して本棚の間を歩く。
天文学と変身術の課題に使えそうな本を適当に見繕って再び図書館を出る。
その間もなんだかモヤモヤとした気持ちは消えない。
ビルはあのレイブンクロー生になんて答えたのだろう?


黙々と歩いて先程の場所まで来ると今度はビル一人だった。
座ってボーッとしていた瞳が私を捉えたのか笑顔になる。


「ハイ、名前」

「ハイ、ビル」

「図書館に行ってたのかい?」


私が抱えている本を見て勉強熱心だね、と笑うビルはいつものビル。
先程ボーッとしていたビルは何だか別人に見えた。
だからホッとしたけれどやっぱりどこかモヤモヤしている。


「名前、談話室に戻る?」

「このまま大広間に行くの」

「そうか。じゃあ一緒に行こう」


私の歩調に合わせてゆっくりと歩く。
モヤモヤのせいで私は会話が続かず、ビルは不思議そうな顔をした。
これではいけないと思い本を抱え直したつもりが腕からするりと抜け落ちる。
慌てて拾うとビルが本を私から取って歩き出した。


「何かあった?」

「あー…ええと」


必死で上手い言い訳を考えてみても思いつかない。
かと言って私が聞いた事をビルに知られたくなかった。
ぐるぐると考えて、私は口を開く。


「さっき、女の子と居るのを見たわ。その人は、良いのかなって思って」


ビルの顔を見て話していたけれどもう無理だった。
俯いて尻すぼみになってしまった私の声。
痛い沈黙の中私とビルの靴の音も止まった。
不意に頭を撫でる大きな手が頭を撫でていく。
恐る恐る顔を上げるとビルは苦々しく笑っていた。


「見られていたんだね。でも、大丈夫だよ。別に特別な相手じゃない」


行こう、と促されて廊下にはまた靴の音が響く。
ビルの言葉を考えると、どうやら断ったらしい。
嬉しい筈なのにやっぱり複雑な気分。
よほど顔に出ていたのかビルに再び大丈夫だと言われてしまった。




大広間に着くと甘い香りと空中に浮かぶジャック・オ・ランタン。
いつもと違う様子に呆然としていると遠くでチャーリーが手を振っている。
そちらに歩き出そうとすると呼び止められた。


「まだ言ってなかった。名前、トリック・オア・トリート」


一瞬驚いたけれど私はポケットからキャンディーを渡す。
するとビルもお返しにとチョコレートをくれた。
今度こそチャーリーの方に歩き出して二人で椅子に座る。
ビルと私を交互に見てチャーリーは私だけに悪戯に笑ってウインクをした。




(20120626)
10
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -