両親とアーサーさんとモリーさんが揃うなんて不思議な光景だ。
もっと言えば一緒にエジプトに向かっているのがなんともいえない。
しかも両親がフルーパウダーを使う日が来るなんて。
エジプトに着くとイギリスと違ってとても暖かい。
けれど夜はグッと冷え込むというのだから不思議だ。
「ビルは何処かしら?」
「モリーさん、あそこですよ」
「あら、本当。アーサー?」
アーサーさんと両親が居ないのに気付いたモリーさんは来た道を戻っていく。
せっかくビルを見つけたのに、とブツブツ言いながら。
私は苦笑いを浮かべて手を振っているビルに振り返して足を進めた。
「会うのは久しぶりだね、名前」
「うん。元気?」
「元気だよ。名前はまた成長した?」
ポン、と私の頭に手を乗せてそのまま撫でられる。
久しぶりの事に嬉しくて出来ればこのままが良かった。
けれど後ろから賑やかな声が聞こえて私はビルの隣に移動する。
それぞれ挨拶をしているのを聞きながら周囲を見渡す。
イギリスでは見られないものばかりだ。
時間があれば色んな物をじっくりと見たい。
「名前、行くよ。置いて行かれちゃう」
「え?」
振り返ると四人は既に歩き始めてもう距離が出来ている。
当たり前のように手を差し出してくれているビルの手を取った。
歩きながらビルが所々説明をしてくれる。
「そういえば、手紙に書いてあった事は本当?」
「うん…あの後もね、ロンの同学年の子とニックが襲われたの」
「ニックが?」
「二人とも石になっただけだけど」
ビルはそれを聞いて黙り込み思考を巡らせ始めた。
思考を邪魔しないように街並みに目を向ける。
ちょうどお母さんとモリーさんが香水瓶を買っているところだった。
「名前も気を付けなきゃいけないよ」
「大丈夫。ビルが教えてくれた呪文もあるし」
「それでも気を付けなよ?」
「うん」
お母さんとモリーさんが近付いてきたので慌てて話を打ち切る。
新聞にも乗っていなかったし、ビルの提案で両親達には秘密の話題だった。
二人は香水瓶を安く手に入れたようで嬉しそうにお父さんとアーサーさんに見せている。
いつの間にか仲良くなっている四人にビルと顔を見合わせて笑う。
食事をした後は一度ホテルに向かうという両親達と別れた。
案内してくれたビルの家に入ると入って直ぐの場所でチェシャーが寛いでいる。
シンプルな部屋で、隠れ穴にあるビルの部屋に似ていた。
机の上に置いてある写真立ての中で制服姿の私とビルが笑っている。
その横に私が送ったクリスマスカードと手紙が飾ってあるのを見つけ、頬が緩む。
「紅茶で良いかい?」
「あ、うん。手伝うわ」
「大丈夫だよ」
笑ってティーセットを出しているビルは次々杖を振る。
手持ち無沙汰で何気なく鞄に手をやって思い出した。
鞄から目当ての物を取り出してそれをビルの方に向ける。
ピントを合わせてシャッターを切るとその音にビルが振り向く。
「カメラ?」
「うん。魔法界のじゃないから動かないけど」
今度はチェシャーに向けてシャッターを切る。
ビルがカップを私の前に置いたのでカメラを端に置く。
そのカメラをビルが手に取った。
覗き込んで徐に私の方にカメラを向ける。
カシャ、と音がして私は口に入れた紅茶を飲み込んだ。
急いで飲み込んでしまったので味がさっぱり解らない。
「父さんが見たら喜びそうだな」
「あ、うん」
「現像したら僕にも送ってよ?」
「え?ビルの写真を?」
「自分だけの写真は要らないよ」
ツン、と人差し指で私の額を突つく。
ビルの笑顔が素敵で、私は思わずカメラを取ってシャッターを切った。
(20121030)
105