幾分スッキリした頭に喜びながら腕時計を見ると夕方の時間を示していた。
眠る時には掛かっていなかった毛布の温もりが心地良い。
それに、この温かい物は何だろうと目線を落とすとプラチナ・ブロンドが目に入った。
私の左腕に自分の両腕を回して、薄い青色は瞼の裏に隠されていて見えない。
驚きで出そうになった声を押し込んで代わりに小さく息を吐いた。
帰って良いと言ったのにそのまま部屋に居てくれたらしい。
そっと顔に掛かっている髪の毛を掻きあげると整った顔が現れる。
去年よりも少しだけ成長した、けれどまだ幼さの残る顔。
ドラコがグンと成長するのはまだ先だろう。
今よりも大人に、外見も中身も大人になって欲しい。
それはフレッドとジョージ、ロンやハリーもそうだけれど。
瞼が震えて薄い青色の瞳が現れた。
「おはよう、ドラコ」
「…名字」
ドラコは自分の両腕が抱いている物を見て目を見開き、慌てて離れる。
その様子が面白く、声を出さずに笑うと私はミニキッチンに向き合った。
ティーセットを見つけて紅茶を淹れる。
水も瞬時にお湯になるのだから魔法は便利だ。
自分とドラコの分を淹れて鞄にあったクッキーを置く。
「あんまり紅茶を淹れるのは得意じゃないんだけど、どうぞ」
「…」
「あ、クッキーは既製品だから大丈夫よ」
飲んでくれないかもしれないと思ったけれど、意外にもドラコは素直に手を伸ばした。
紅茶を飲んでクッキーに手を伸ばしてそのまま口に運ぶ。
サクサクとドラコの口の中で軽い音がした。
向かい合って紅茶を飲んでいるなんてとても嬉しい。
「来週、クィディッチがあるわね」
「名字はポッターを応援するんだろう?それとも、双子のウィーズリーか?」
「ドラコも応援するわよ。初めての試合だもの」
「…僕はスリザリンだぞ」
「そう、それがちょっと困るのよね」
割と真剣に困ったなぁと思っているのだけど、ドラコは呆れたように溜息を吐いた。
そしてまたクッキーを運び、サクサクと音を鳴らしている。
ハリーとドラコは二人ともシーカーで、二人とも応援したい。
けれどどちらかがスニッチを掴まなければならないのだ。
「どうして僕なんだ?」
「ん?何が?」
「どうして僕に構う?」
本当に純粋に疑問をぶつけるドラコにいつもの雰囲気はない。
何度も理由は告げているのにそれだけでは満足しないのだろう。
「ドラコは純血主義についてどう思う?」
「素晴らしいと思うよ」
「そうね、血筋を誇るのは素敵な事だわ。でも、だからってマグル生まれを差別する理由にはならないでしょう?」
「前にも同じような事を言っただろう」
「マグルは魔法を使わないだけで、色々便利な物があるのよ」
首を捻ったドラコにどう説明しようか悩んでいたら本が出てきた。
しかもこれはマグルの世界の本。凄い部屋だ。
開いて色々と説明をするのをドラコは表情を浮かべず聞く。
マグルの物は初めて聞く物ばかりなのだろう。
偶にクッキーを咀嚼するサクサクという音が響いた。
「どう?凄いでしょう?」
「僕にマグル生まれを差別するなと言いたいのか」
「それはドラコが決める事だわ」
本を閉じると用が終わったのを感じ取ったのか本が消える。
ドラコは眉を寄せていてその表情は難しい。
だいぶ減ったクッキーに手を伸ばすと反対側からも手が伸びた。
伝えてはいないけれどこのクッキーはマグルの物。
ドラコは気に入ったらしく先程から何枚も食べている。
「あげるわ、クッキー」
「は?」
「私は部屋にまだあるから。そろそろ行かなきゃね」
残りのクッキーを包み直してドラコに渡す。
杖を降ってカップを洗って振り返るとドラコは手の中のクッキーを見つめていた。
頬を突つくと慌てて立ち上がって箒を取りに行く。
扉を開けると冷たい風が吹き込んで来てマフラーを巻き直す。
「お前…体調は良いのか?」
「寝たらスッキリしたわ。有難う」
笑顔を向けたけれどそっぽを向いてドラコは歩き出した。
横に並ぶとチラッと目が此方を向く。
(20121026)
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