談話室の隅で一人座っているジニーを見つけて私は慌てて近寄った。
ミセス・ノリスの出来事以来どうもジニーは元気がない。
ロンはジニーは猫好きだからショックを受けたと言うけれど。


「ジニー、今大丈夫?」

「あ、名前」


視線を彷徨わせて小さく頷いたのを確認して隣に座る。
机の上には教科書と羊皮紙が広げられているけれどあまり捗ってはいないらしい。


「どうしたの?」

「特に用事はないのよ。ただ、ジニーと最近話してないなぁと思って」

「だって、名前忙しそうだもの」


その言葉には苦笑いをするしかなかった。
同じ事をジョージにも言われたばかり。
ジニーの手から羽根ペンを取って抱き締める。
ふわふわと花のような香りが鼻を擽った。


「今はジニーに時間をあげるわ」

「嬉しい!でも、フレッドとジョージが」

「あの二人なら追い返すから大丈夫」


追い返される二人を想像したのかジニーが可笑しそうに笑い出す。
久しぶりに見るジニーの笑顔に私まで嬉しくなる。
ジニーの隣でビルへの手紙の返事を書きながら課題を手伝う。
最近ずっと元気のないように見えたジニーをビルも気にしている。
手紙に兄弟の事が書いてあるとやっぱり彼は長男だと改めて思う。


ジニーが寝ると階段を登っていくのを見送って近くに飛んできたチェシャーを撫でる。
チェシャー本当に頭が良くて、手紙を出したい時には飛んで来て此方を見詰める事が多い。
チェシャーの足に手紙を括り付けているとソファーの背もたれからジョージがこそこそと覗いた。


「名前」

「何かしら?」

「もう良い?」


目だけで此方を見上げるジョージの頭を撫でる。
少しふて腐れた顔をしてからソファーに座った。
つい癖で撫でてしまったけれど、ジョージも四年生だ。
もしかしたら子供扱いされているようで嫌なのかもしれない。
気を付けなければ、と思いながらチェシャーを見送る。


「よく待ってたわね」

「うん。ジニーが笑ってたから」


そんなジニーを思い浮かべたのかジョージは優しく笑う。
なんだかんだ言いながらウィーズリー兄弟はジニーが可愛くて仕方ないらしい。
無意識にジョージの頭に向けて伸びていた手をこっそり引っ込める。
代わりに紅茶を淹れようとティーセットを呼び寄せた。


「フレッドは?」

「後ろ。寝てるよ」

「あら、本当」


ソファーにピッタリとくっついて眠っている。
そのうち起きるだろうと放っておく事にしたらしい。
ジョージは花火を持ちそれをジッと見つめている。
目の前にカップを置いても視線は花火に向けられたまま。
自分のカップに砂糖を入れてスプーンで回す。
砂糖は紅茶に馴染むようにスッと溶けていった。


「また何か悪戯?」

「うん…どうにか出来ないかなって思って」

「怪我しないようにしなさいよ」

「心配してくれる?」


花火から私に目を移したジョージは先程と同じ顔で笑う。
当たり前だと言うと嬉しそうに笑ってジョージは紅茶に手を伸ばした。
同じようにフレッドやロン、ジニー、ドラコも心配しているのだけど、ドラコにはなかなか伝わらない。


「名前は、マルフォイが好き?」

「好きよ」

「でも、名前を傷つけるかもしれないだろ?」

「あの子は頭の良い子だから、解ってくれるわ」

「そうかなぁ」

「私の事を穢れた血って言った事はないわよ」


ジョージは意外そうに目を丸くしてから顔を顰めた。
ドラコを好きじゃないから、信じられないのだろう。
何よりマルフォイの名とスリザリンが邪魔をする。


「もし言ったら俺が許さない」

「有難うジョージ」


ことん、と肩にジョージの頭が乗せられて赤毛が頬を擽る。
頭を撫でるとふわりと火薬の匂いがした。




(20121024)
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