「好きな絵を描けよー」


今日のお絵描きの時間は特に何も決めずに好きな絵を描いて貰う事にした。
はーい、と元気に返事をしてクレヨンを手に取る子供達。
なんと、ジェームズまで素直に絵を描き始めている。
一瞬嬉しさを覚えるけれど、リリーを凝視している所を見て溜息を吐く。
描き終えたらきっとリリーとジェームズの言い合いが始まる筈。
というか、今からリリーから恐いオーラが出てきている。
首を振って意識を其処から遠ざけて他の子の所へ行く。


鳶色の髪の毛の彼は他の子供より大人っぽい。
なんとなく覗き込めば想像通りの絵。
彼の茶色のクレヨンは他の色に比べて短い。


「リーマス、またチョコレートか」

「チョコレートと言ってもこれはボンボンだよ」

「あぁ…?」

「嫌だなぁ、シリウス先生知らないの?」


多分他意は無くて、子供ながらの純粋な疑問なのだろう。
それでも甘い物を食べない俺からすれば未知の領域だ。
ボンボンって、甘いものじゃ無いのか?


「あ、私もボンボン好き」

「名前も?美味しいよね、ボンボン」


リーマスの近くに座っていた名前の声。
リーマスの興味は移ったらしく、二人でボンボンの話をし始める。
最近の子供は恐ろしい、なんて片隅で思った。


「シリウス先生は、ボンボン好き?」

「いや、俺は…ええと」


クリッとしてキラキラした瞳に見つめられると困ってしまう。
甘いものは苦手だし何よりまずボンボンが解らない。
名前から見えないのを良い事にリーマスはニコニコとこちらを見ている。


「シリウス先生は甘いものが苦手みたいだよ」

「そうなの?」

「うん、まあ、な」

「チョコレート美味しいのにね。残念だと思わない、名前」


名前には爽やかな笑顔なのに俺に見せる笑顔は将来が心配になる笑顔だ。
リーマスの言葉に頷く名前の顔は微妙な表情を浮かべている。
その場を離れて再び見回る為に歩き出す。
案の定描き終わったらしいジェームズがリリーと何か騒いでいた。
触らぬ神に祟りなし、なので近寄らないでおく。
皆の絵を飾る為に集めていると何故かジェームズの絵は無かった。
やはり近寄らなくて良かったかもしれない。


「はい、シリウス先生」

「はいよー」

「違うの。これはシリウス先生にあげる」


そう言って手渡されたのは俺の似顔絵。
驚きの中受け取ると名前はもう一枚の絵を置いて行ってしまう。
まじまじと眺めていると、思い切り絵を押し付けられた。


「…リーマス」

「名前の絵をいつまでも見てないでよ」


相変わらず笑顔だったけれど、俺は素直に頷いた。




(20120502)
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