部屋の扉をノックして返事を待つ。
中から返ってきた返事に扉を開けると首だけで振り返った彼が居た。
因みに一人しか居ないのは彼のルームメイトに確認済み。


「名前?どうしたの?」

「ん、うん。ちょっとねー」


ボフッとベッドに座ると少し埃が舞う。
彼は不思議そうな顔をしながら机に向き直る。
その背中を眺めながら彼が生み出す文字を書く音を聞く。
寝転がると後ろ姿しか見えなかったのが横顔が見えるようになった。
真剣な顔で文字を書く姿にきゅんと心臓が鳴る。


「今日、沢山女の子に話しかけられてたわね」

「ああ、うん」

「嬉しい?」

「そりゃあね」

「ふぅん」


ゴロリと寝返りを打つと空っぽのベッドが見えた。
彼のベッド脇にある沢山のカードにはそれぞれ想いが書き連ねられているのだろう。
少し面白くはないけれどこんな事を気にしているなんて知られたくはない。


「名前、制服で転がると皺になるよ」

「良いもーん」


体を転がして彼の方を向けば呆れたように微笑んでいた。
全く、なんて言うから少しムッとしてまた体を転がす。
ギシ、と鳴ったのはベッドで伸びてきた腕が目の前に現れる。
そのままその腕に促されるまま体を転がすと私を見下ろす彼の瞳。
あ、綺麗、なんて思っていたらそのまま降りてきて額に唇が落とされる。


「どうしたの?」


今日三度目の問いに視線を彷徨わせてから体を起こす。
髪の毛がぐしゃぐしゃだと彼が手櫛で整えてくれる。
その手を取ってローブのポケットから出した包みを押し付けた。
さっき転がったせいで少しよれているけれど中身には問題ない。


「何?」

「誕生日、おめでとう」

「…それだけ?」

「え?」


ジッと私を見つめて彼が放った疑問に首を傾げる。
何だろう、と真剣に考え出した私を放って彼は包みを開け出す。
因みに彼に贈ったのは深い赤色のマフラーだ。
残念ながら編み物は得意ではないので既製品。


「暖かそうだね」

「うん」

「有難う、休日に使うよ」


そう言いながら自分の首に巻き始める彼が可愛くてきゅんとした。
思わず彼の胸に体を寄せると爽やかな花の香りがする。
いつもの香りに安心して額を押し付けると背中に腕が回った。
その手がトントンと優しく叩くから私は幸せで頬が緩んでしまう。


「名前」

「ん?」


綺麗な指が私の顎を掬って上を向かされた。
彼の綺麗な瞳と出会ってどきんどきんと心地良く心臓が鳴る。
まるで幸せだ好きだと言っているような音。
ゆっくり近付いてくる彼の顔に目を閉じるとそっと触れて離れていく。
目を開けると先程よりも近くで彼の瞳が見えて、殆ど同じタイミングで笑った。


「ビル、誕生日おめでとう。生まれて来てくれて有難う」

「うん」

「大好き」

「知ってる。僕も大好きだよ」

「知ってるわ」


コツンとおでこがぶつかって二人でまた笑う。
彼のルームメイトが帰ってくるまで、このままで。




(20121129)
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