担任から呼び出され、大学のパンフレットを大量に渡された。
調べておけと言う事だろうけれどこんなにどうしろというのだろう。
県内だけでなく県外の物まである。
机には入らないだろうし、かといってロッカーに入れるのも邪魔になりそうだ。
勿論持って帰るのも嫌なのでどうしようか悩みながら廊下を進む。
ふと国語科準備室という文字が目に入り坂田先生の顔が浮かぶ。
こうなったのは坂田先生がとりあえず進学にしておけと言ったのが原因だ。
心の中で坂田先生への文句の言葉を並べていると突然扉が開く。


「名字……何してんの?」

「パンフレットを運んでます」

「こんなに?」


一番上のパンフレットを手に取った坂田先生は欠伸をしながら文字を眺める。
それを何回か繰り返した時、坂田先生があ、と声を漏らした。
一体何が坂田先生の興味を引いたのかが気になって手元を覗き込む。


「……そこ、もしかして先生の母校ですか?」

「ああ、まあ」

「大学、楽しかったですか?」


坂田先生の視線が私からパンフレットに移り、また私へと戻ってくる。
頭を掻いて坂田先生は持っていたパンフレットを纏めて乗せた。


「忘れた。じゃあな」


すれ違いざまに私の頭を撫で、坂田先生は歩いていく。
動揺して早くなる鼓動に気付かないフリをして教室へと向かう。


一冊だけ手元に残し、パンフレットの山をロッカーに突っ込んで自分の席に座った。
ページを捲り、学科や学校行事等に内容に目を通していく。
授業風景や行事の写真を見ながら最後まで捲り終える。
坂田先生だけでなく色々な先生がこの大学に行っていたんだろうか。
小学校や中学校時代の先生の顔を思い浮かべて再びパンフレットに視線を落とす。
先生達の学生時代なんて上手く想像出来ない。
もしかして先生達も同じ事を思ったりしたんだろうか。


「名前、居た。先生の用事終わったの?」

「あ、ごめん。今行くよ」


友達を待たせていた事を思い出して慌てて鞄を手に立ち上がる。
パンフレットは鞄に押し込んで教室を出た。




大量のパンフレットを先生に返しに行った帰り、何となく足が向いた先は国語科準備室。
ノックしてみたけれど返事がないのでもしかしたら居ないのかもしれない。
そっと扉を開けて隙間から中を覗いてみると白衣を着た後ろ姿が見えた。
居るのに返事をしないなんて、と思いながら声をかけて近付いてみる。
それでも返事はないし、全く動かないからそんなに仕事に集中しているんだろうか。
顔を覗いてみると眼鏡の奥にある瞳は瞼で隠されていた。


「先生、サボリですか?」


小さな声で聞いてみてもやっぱり返事はない。
こんな体勢で寝ていたら首が痛くなってしまいそうだ。
かと言ってどうにかしようとしてもきっと起こしてしまう。
いっそ起こした方が良いかもしれない。
こんな場面を見られたら坂田先生は怒られてしまう。


「先生、起きて下さい」


そう思いながらも口から出た声は小さく、坂田先生は起きそうにない。
どうしようかと視線を巡らせると机の上に大学のパンフレットが置いてある事に気が付いた。
坂田先生が通っていた大学のパンフレット。
音を立てないようにパンフレットに手を伸ばす。
けれどその手が届く前に大きな手に掴まれてしまった。


「いやんエッチ」

「……起きてたんですか?」

「いや?」


腕が下ろされたと思ったら、手が離れていく。
私の手より大きくてまるで小さな子供になったみたいだ。
実際は子供でもないし大人と呼べる程でもない。
中途半端だな、なんて思っていたら欠伸をする気の抜けた声が聞こえた。


「で、どうした?」

「え?」

「何か用事があったんじゃないのか?」

「あ、志望校が決まったので、一応」


坂田先生の目がチラリと机の上のパンフレットを見る。
しかしただ見ただけで、直ぐに上に書類を乗せてしまった。


「良かったな」

「はい。でも、勉強しないと」

「お前国語苦手だったな」


国語担当の坂田先生にそう言われてしまっては何も言えない。
言葉を探していると、頑張れという言葉と共に頭を撫でられた。
この先の勉強を思うと憂鬱になってしまう。
しかし自分で決めた事なので頑張るしかない。




(20161102)
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