言われた通り、門の前で坂田先生を待つ。
まだ何か用があるのかななんて考えながら空を見た。
あんなに晴れていたのが嘘のように月も星も見えない。
そういえば今朝の天気予報で夜は雨が降るかもしれないなんて言っていた。
降るならば私が家に着くまで耐えていて欲しい。
それにしてもいつまで待てば良いんだろう。
時間を見ようと携帯電話を取り出すとほぼ同時にエンジン音が近付いてきた。


「お待たせ。ほらよ」


目の前で止まったスクーターは見覚えがある。
そしてそのスクーターに乗って私にヘルメットを差し出しているのは坂田先生。
理解が追いつかなくてジッとヘルメットを見つめていたら胸元に押し付けられた。
仕方なく受け取るけれど、これはもしかして送ってくれるんだろうか。


「ほら、早く被れ。んで乗れ」

「先生、あの、大丈夫です」

「大丈夫じゃねーの。何かあったらお前が困るだろ」


小さく返事をすると再び早くしろと急かされた。
ヘルメットを被って坂田先生の後ろに座る。
スカートで跨ぐのは少し躊躇ったけれど。


「ちゃんと掴まってろよ」

「えっと、何処に掴まれば?」

「……お好きに」


お好きにと言われても、後ろに乗るのなんて初めての体験。
早くしろと急かされ探す時間もなく目の前の坂田先生の白衣をそっと掴んだ。
ゆっくり走り出したスクーターに驚いて思わず引っ張ってしまう。


「おい、引っ張んな」

「ごめんなさい」


いつも歩いて通る道がいつもと違うスピードで流れていく。
それだけで違う道のように見えてしまう。
ただスピードが違うだけなのに、不思議だ。
もう同じ制服を着た人は歩いていない。
それどころか歩行者もあまり居なかった。
坂田先生が起こしてくれたら、なんて思わなくもない。
元々は私が悪いなんて痛い程解っているけれど。


駅に到着した瞬間自然と息を吐き、緊張していた事を改めて知る。
手も思ったより力が入ってしまっていたらしくとても冷たい。
ヘルメットを脱いで坂田先生に渡そうと顔を上げる前に頭に何かが触れた。
伸びる白衣の腕にまた、と呟きそうになった言葉を飲み込む。
その腕にヘルメットを押し付けると坂田先生はそれを座席の下にしまう。


「有難う御座います」

「どういたしまして。真っ直ぐ帰れよ」

「はい。さようなら」


スクーターに跨り直した坂田先生はひらひらと手を振って走り去って行った。
次に来る電車の時間を確認して改札を抜ける。
電車が来るのを待ちながら何をするでもなく携帯電話を取り出す。
母親にメールを送ると同時にホームに電車が入ってきた。




(20160508)
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