どうしてこうも用事を頼まれるんだろう。
そんなに暇そうに見えるんだろうか。
頼みやすいと言えば聞こえは良いのかもしれない。
資料を抱え直して息を吐く。


「おー、また溜息か?」

「坂田先生……会議は良いんですか?」

「会議?」


私にこの資料を渡した先生は会議だからと慌てていた。
坂田先生は会議と呟きながら頭を掻く。
忘れているなんて思いたくはないけれど坂田先生ならばありえる話だ。


「今日は会議は無かった筈だけどなぁ」

「そうなんですか?」

「……ああ、思い出した。今日会議すんのは理科の教師だ」

「そうですか。それじゃあ、帰ります。さようなら」


頭を下げて目的の資料室へと足を向ける。
さっさと片付けて今日はもう帰ろう。
これ以上誰かに何かを頼まれてしまう前に。




靴を履き替えて外に出るとまだ空が青かった。
帰って何をしようかな、と思いながら携帯電話を見る。
相変わらず何通も送られてくる迷惑メールを消していく。
友人からのメールの返事を打ち込みながらノロノロと進む。
駅前に美味しいアイスクリーム屋が出来たらしい。


「帰んの?」


誰に話しかけたんだろう、と思いながら送信する。
携帯電話を鞄にしまうと無視ですかと声がした。
話しかけられている人は早く返事をすれば良いのに。
なんて思っていたら名前を呼ばれた。
まさか私に話しかけていたなんて思わず、慌てて顔を上げる。
やっと気付いたと言いながら坂田先生が煙草の煙を吐く。


「無視されると先生傷ついちゃうよ?」

「私だとは思わなくて。すみません。それより、こんな所で煙草吸ってて良いんですか?」

「こんな所だからだよ」


門の影にもたれ掛かって携帯灰皿に灰を落とす。
確かに正門じゃないからお客さんの目には付かないだろうけれど。
先程擦れ違ったのは此処に来る為だったのかもしれない。


「いつもこんな所で吸ってるんですか?」

「うるせーヤツがいるんだよ」

「授業中も吸ってるじゃないですか」

「間違えんな。あれはレロレロキャンディーだ」


やけに真剣にそう言うと携帯灰皿に短くなった煙草を入れ、ポケットにしまった。
どうやら煙草休憩は終わりらしい。
ゴソゴソとポケットを漁り、キャンディーを取り出した。
煙の出ない、ピンク色した棒付きのキャンディー。


「で、もう帰んの?」

「はい」

「ふぅん。んじゃまあ、気を付けて」


頭を撫でる手と、仄かに香る煙草の匂い。
気付いた時には離れていて、ひらひらと振られていた。
撫でられた感触が残る頭を押さえる。
まただ、また頭を撫でられた。
坂田先生の行動はよく解らない。




お昼休み、自動販売機の前でイチゴオレを見て坂田先生を思い出した。
私には甘すぎる、なんて考えながらカフェオレのボタンを押す。


「またカフェオレなんだ。甘くて苦手って言ってたのに」

「うん……なんか、押しちゃった」

「何それ。大丈夫?」

「大丈夫。ほら、早く戻ろう」


友達の背中を押しながら自動販売機から離れる。
今日はヨーグルト味を買うつもりだったのに。
イチゴオレを見て坂田先生の事を思い出したせいだ。




(20160317)
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