最後かもしれない、雪が降った。
それは儚くも強くもあって、恐いとさえ思う。
他愛もない話をして、名前は沢山笑った。
けれど、余り長続きはしない。
疲れたと言って眠ってしまった。
そんな名前の頭を撫でて、布団に入る。
朝起きたら、雪道を名前と一緒に歩こう。
「夏目様」
声に意識を戻され、目を擦りながら起き上がる。
名前が座って此方を見て微笑んでいた。
「名前?」
「夏目様、起こしてしまってすみません」
「どうした?眠れないのか?」
俺の言葉に名前はゆっくりと首を横に振る。
「私は、夏目様が好きです。いつまでもお側に居たいと思っていました。けれど、もう無理なのです」
「名前」
「もう、春が来ます」
笑う顔はとても綺麗で、今直ぐにでも消えてしまいそう。
腕を伸ばして名前の手を掴む。
いつも冷たかった手はやはり冷たい。
「ごめんなさい、好きになってしまって」
よく解らない感情が胸を埋めて、名前を抱き締める。
冷たくて、でも温かい。
「有難う、俺を好きになってくれて」
「夏目、様」
冷たい手が頬に触れ、それは次第に薄れていく。
何度も見る光景なのに未だに慣れない。
消えてしまう、名前はもう直ぐ、
「夏目様、どうか幸せに」
それが、最後に聞いた名前の声。
(20090330)
落ちる、春 8