名前は、あれ以来一切姿を見せない。
積もっていた雪はすっかり溶けて消えた。
刺す様に冷たかった空気も穏やかな物へ。
春にはまだ早いけれど、春の様。
最近気付いたのだけど、名前に会う日はいつも寒い日だった。
「何をボケッとしておる」
「にゃんこ先生」
此方を見上げるにゃんこ先生はニヤニヤ、と笑う。
毎晩夜遅くに帰って来ていたから久しぶりだ。
「お前、あの妖が気になるのか?」
「は?」
「名前とか言う、あの妖だ。仲が良い様だったじゃないか」
「…煩いぞ、にゃんこ先生」
す、と顔を逸らせばある事に気付く。
此処は名前と出会った場所。
雪を見て緩んでいた顔は俺を見た瞬間変化した。
騒いでいるにゃんこ先生を無視して歩く。
気になるのは確かかもしれない。
頑なに友人帳に名をと言っていた名前。
理由を聞きたくもある。
「あやつは妖だぞ、夏目」
「え?あぁ、解ってるよ」
「…本当に解っているのか」
気になる言い方をする先生に聞こうとすれば、先へと行ってしまう。
どういう事かと考えながら振り返る。
振り返ってみてもやはり名前は居ない。
暫く見つめて、雪が降らないかと少し思った。
(090205)
落ちる、春 3