封筒が届いたのは朝で、喜んだママがパーティーの準備を始めた。
手伝いを終わらせて家を抜け出し名前の家に向かう。
ママには話をしたし、後は名前をパーティーに誘うだけ。
走って辿り着いた名前の家はまた玄関が開いていた。
あんなに気を付けてと言ったのに。


「名前、入るよ」


中に聞こえるように声を掛けてから中に入る。
キッチンの扉を開いても名前は居ない。
床にはお皿やスプーン、本、洋服、ととにかく色々な物が落ちている。
よく一緒にお茶を飲むテーブルの上も同じ様に散らかっていた。
何か名前に良くない事があったんだろうか。
ドキドキしながら名前が仕事部屋にしている部屋の扉を開いた。
そこにも名前は居なかったけど、散らかってもいない。
いつもと同じ様に鍋や材料が置いてあるだけだ。


「名前」


呼び掛けてみても返事は無くて、梟の声すらしない。
二階に行くと扉が二つ並んだ廊下に出た。
二階に来るのは初めてだからどっちが名前の部屋か解らない。
とりあえず右の部屋を覗くと何も置いてない部屋だった。
と言う事はもう一つの部屋に名前が居るかもしれない。
ノックをしてみるけどやっぱり返事は無くて一層ドキドキしてきた。
静かに扉を開けて隙間から部屋の中を見る。
タンスとベッドが見えて、そのベッドの上に名前が居た。


「名前」

「……ビルね。こんにちは」


名前の声はいつもと違って力が無くて、こっちを見ようとしない。
もしかしたら泣いているのかもしれないと思ったらどうすれば良いか解らなくなった。


「どうしたの?」

「名前、下に居なかったから」

「……そうね。玄関開いてた?」

「うん」

「そっか。閉めた記憶無いから当たり前かもね」


立ち上がって深呼吸みたいに息を吐いて名前が振り返る。
涙は出ていないけど元気は無いように見えた。
でも直ぐにいつもと同じ様に笑ったから、元気があるのかもしれない。


「下行こうか」


一緒に一階に降りてキッチンに入ると名前が杖を振った。
どんどん散らかっていた物が片付いていく。
僕の足に引っかかっていた封筒を拾う。
中身は入っていなかったから飛んでしまったのかもしれない。
もしかしたら大事な注文の手紙かもしれなくて辺りを見渡してみる。


「どうしたの?」

「これ、中身が無いから」

「……ああ、それは、もう読んだから良いの」


差出人を確認した名前はそれを引き出しにしまった。
いつもの注文の手紙をしまうのとは違う引き出し。
あれは注文じゃなくて友達からの手紙だったのかもしれない。


「それより、今日はどうしたの?」

「あ、そうだ。今日はパーティーに誘いに来たんだ」

「もしかして、届いたの?」

「うん。ママには話してあるから大丈夫だよ」


名前がクリップで留めてある手紙を捲る。
その横には魔法薬の名前と数が書かれた紙が置いてあった。
魔法薬を作らなきゃいけないのなら名前は来てくれない。
手伝えたら良いのにって思ってもまだ何も作った事は無かった。


「わかった。パーティーは夜から?」

「うん!」

「じゃあそれまでに準備を済ませておくわ」


また後で来る事を約束して自宅に急いで帰る。
名前が来てくれるなら準備の手伝いも楽しく出来ると思う。




(20150322)
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