翌朝、キングス・クロスまで名前も一緒に行く事になった。
弟達と仲良しの名前はジニーとロンと手を繋いで少し前を歩いている。
その後ろ姿を眺めながらカートを押して歩く。
名前はいつも通りの笑顔でいつも通りおはようと言った。
それが嬉しくもあり、少し寂しくもあり。


三人分のトランクをコンパートメントに運び、ホームへ戻る。
フレッドとジョージを両手でしっかりと掴んだパパと、いつものサンドイッチを持ったママ、ジニーとロン。
順番に挨拶をして、最後は名前だ。


「困った事があったらいつでも手紙に書いてね。ビルは優秀だから大丈夫かもしれないけど」

「どうかなぁ」

「監督生に選ばれたのよ。優秀だわ」


手紙と一緒に入っていた監督生バッジを見た時のママの反応を思い出す。
そんなに喜んでもらえて嬉しいという気持ちと、直ぐに名前に伝えられなかった苦い気持ちも。
だから今朝会って一番に伝えたら名前も喜んでくれた。


「監督生と勉強、出来るかな」

「あまり気負わずにいつも通りやれば大丈夫よ。心配なら冬休みに一緒に勉強しましょう?」

「うん、頑張ってくる」

「ええ。行ってらっしゃい」

「行ってきます」


コンパートメントに辿り着くと、窓から身を乗り出す。
ジニーを抱いた名前が笑顔でこっちを見ている。
冬休みになったら、直ぐに会いに行こう。




友達に誘われて弟達は居なくなり、コンパートメントには一人。
ママお手製のサンドイッチを食べているとノックをする音がした。


「よお、久しぶり」


ニヤニヤ笑う友人はそのまま入ってきて向かい側に座る。
彼女と居ると思っていたけれど、どうやら一人らしい。


「夏休み、どうだった?」

「ずっと家で過ごしてたよ」

「手紙の彼女とデートでもしなかったのか?」


名前の話題になるとは思っていたけれど、いきなりすぎやしないだろうか。
何と答えようか言葉を選んでいるうちに、何かを自分の中で見つけたのか友人は隣に座り直し、慰めるように肩を叩いてくる。


「相手に恋人でも出来たか?」

「出来てない」

「じゃあ片想いの相手?」

「それは……わからない」

「あ、じゃあ会えなかった?」

「いや、会った」

「もしかして、フラれたか?」

「……まあ、そんなところ」

「おいマジかよ」


自分で言い出しておいて何を驚いているのか。
肩に置かれた手を振り解き、サンドイッチの残りを口に放り込む。


「元気出せよ。なんなら女の子紹介するぞ。モテるから必要ないかもしれないけど」

「モテないよ。それに、紹介も要らない」

「可愛い子居るのになぁ」

「諦めるわけじゃないから良いんだよ。それに、今年は勉強頑張らないといけないだろ」


話題を変えると友人はうんざりとした表情を浮かべて家族に良い成績を取れと口酸っぱく言われたエピソードを話し始めた。
相槌を打ちながら名前の大丈夫だと言う言葉を思い出す。
この一年間に不安がない訳ではないけれど、名前の言葉を思い出せば頑張れるような気がする。




(20210604)
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