ママに貰ったクッキーを抱えて名前の家へ向かう。
家から少し離れた所に住む名前は最近引っ越してきたばかり。
玄関が開きっ放しになっていて、中に誰か居るのかと入っていったら梟相手に困っていた。
お茶を飲みながら話をしてまた遊びに来る約束したのがこの間。
気を付けなくちゃ、と笑っていたのに今日も玄関の扉は開いたまま。
「こんにちはー!名前?」
大きな声で名前を呼んだのに返事が無い。
迷いながらも中に入るとキッチンで本を読んでいる名前が居た。
集中しているみたいだから声が聞こえなかったのかもしれない。
本と名前の顔の間に手を入れて名前を呼んでみる。
「……ああ、驚いた」
「こんにちは、名前」
「いらっしゃい、ビル」
「玄関開いてたよ」
何でかな、と言いながら名前は本を伏せてグラスを取り出す。
今伏せられた本のタイトルを見ると魔法薬の本だと解る。
あの日教えて貰った事の中に魔法薬学が好きだという情報があった。
そして魔法薬を作って通信販売で売るのだという事も。
もしかしたら通信販売の為に本を読んでいたのかもしれない。
「はい、オレンジジュース」
「有難う。今日はママの作ったクッキー持って来たんだ」
「美味しそう。じゃあちょっと休憩しようかな」
そう言うと名前は机の上の本や羊皮紙を片付ける。
ママが見たらもう少し綺麗に片付けなさいと怒りそうだ。
でも名前は全然気にしないでクッキーを食べている。
名前と同じ様にクッキーをかじるといつものママのクッキーの味がした。
「ねえ、それ魔法薬の本?」
「そうよ。見てみる?」
「うん!」
目の前に置いてくれた本の文章を読んでみる。
いつも読んでいる本よりも難しい言葉が多い。
魔法薬の作り方が書いてあると思っていたのに、全然違う。
理解出来ないまま何回かページを捲るとやっと作り方が載っていた。
「これ、ホグワーツで習うの?」
「習うよ。ビルは今年入学だっけ?」
「うん。でも、まだ手紙来ないんだ」
「そうなの。待ち遠しいね」
ママも同じ事を言っていたのを思い出す。
毎朝梟が来る時間になるとソワソワしている。
届いてないのが解ると明日来るわと言って笑うのだ。
「名前は、手紙いつ来たの?」
「いつだったかなぁ……忘れちゃった。でものんびり待っていればいつか来るよ」
だから大丈夫と言いながら頭を撫でられる。
パパやママに撫でられるのとは何か違う。
でも何が違うのかは解らなくてジュースを飲む。
家族以外に頭を撫でられたのは初めてじゃないのに。
答えを探していたら名前の梟が勢い良く飛び込んで来た。
足には沢山の手紙が括り付けられている。
「まあ、こんなに」
「全部注文?」
「そうみたい。今取るから待ってね」
名前が梟の足から手紙を取るのを手伝う。
皆魔法薬の作り方を習っていないんだろうか。
その事を名前に聞くと何でか名前は嬉しそうに笑った。
手紙を取り終えた梟が止まり木へと飛んでいく。
「世の中にはね、自分で作るのが面倒って人が居るの」
「これ皆そういう人達?」
「多分ね」
手紙を一通一通広げながら渡す。
名前はそれをクリップで留めてパラパラと捲る。
羽根ペンを持って羊皮紙に魔法薬の名前を書いていく。
縮み薬や老け薬、真実薬まで色々な名前が並んだ。
「今から作るの?」
「簡単なのからね。ビル、見て行く?」
「良いの?」
「勿論」
クリップで留めた手紙を持って名前を追い掛ける。
(20150318)
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