淡々と依頼の魔法薬を作り、薬草の世話をして梟に配達をお願いする。
そんな日を過ごし、気が付いたら約束をしていた土曜日になっていた。
デートに行かないで、と真剣な顔をして言われた事を思い出さずにはいられない。
着替えをしながらあの日を反芻していたらふと時計が目に入る。
約束の時間までそう間がない事に慌てて家を出た。


友人と、友人の知り合いが待っている場で断りの言葉を言って帰る予定。
予定は予定であって、そう上手くはいかないなぁと思う。
しかし、今この場に居るのが友人だけだと言う事は嬉しい誤算だろうか。
この間はデートしてみても良いと言っていたのにどうしたんだなんて問われているのは、嬉しくない誤算。
いや、聞きたくなるだろうし誤算でもないのかな、なんて考えながら簡単に事情を説明する。
黙って聞いていた友人はアイスクリームをスプーンで口に運ぶ。


「それって、この間会った子でしょ?」

「うん、そう」

「私が帰った後にそんな事があったなんてねぇ」


友人と同じようにアイスクリームを口に含むと甘酸っぱい味が広がる。
しかし、私の体温で直ぐに溶けて消えてしまう。


「で、その子の言った通りデートを断りに来たの?」

「言われたからって訳じゃ……そんな気分じゃなくなっただけで」

「好きって言われたから?」


質問の答えを考えてみるけれど、上手い言葉が見つからない。
肩を竦めて見せると呆れたような顔をされた。


「その子の事、好きなの?」

「いや、未成年だし」

「まあ、未成年は対象にはならないわよねぇ」


頷いてアイスクリームを食べると、やっぱり直ぐに溶けて消える。
ビルは未成年で、小さな頃から知っている弟のような存在で、そういう風に見た事はなかった。
じゃあその逆はどうかと言われたら、もしかしたらと思う事はある。
バレンタインの花や、二つ贈られたクリスマスプレゼント。
けれど、それらは気のせいかもしれないし、と答えを求める事はしなかった。
もし間違っていたら自惚れているようで恥ずかしいし、純粋に慕ってくれているビルに申し訳ない。


「未成年じゃなかったら、なんて言われたけど、そんなの解らないじゃない。今未成年なんだもの」

「そうね。さすがに犯罪だし。でも、好きな人がデートするかもって状況に焦っちゃうなんて、可愛いわよね」

「客観的に見ればねー」


友人がからかうような笑みを浮かべる。
当事者じゃなかったら私も同じ事を思うんだろう。
確かにあの日の別れ際、ビルは後悔したような顔をしていた。
きっとまだ言うつもりはなかったんだろう。
若さ故か焦り故か、どちらにしても衝動的である。


「ただ、あの日から来なくなったのよね」

「ま、来づらいわよね」

「うん」

「でも、そのうちひょっこり顔出すんじゃないの。名前の事好きなんだし」

「だと良いんだけど」


このまま会わなくなるのは何となく嫌だなぁと思う。
でも、ビルが嫌だと言うならそれも仕方ない。
ビルの気持ちには今は応えられないのだし。
もし来てくれたらその時はいつも通り出迎えよう。




夏休みも半分を過ぎた頃、モリーさんから手紙が届いた。
夕食への招待という、普段なら嬉しい内容も今は少し困ってしまう。
普段仲良くして貰っているから行きたいけれど、夏休みの今はビルが居る。
私に会いたくないかもしれないし、どうしようか悩んでいたら玄関のベルが鳴った。
返事をしながら扉を開けると、そこに立っているのは久しぶりに会うチャーリー。


「あら、チャーリー」

「こんにちは」

「こんにちは。珍しいわね。どうぞ」


中に招き入れて、ジュースを用意する。
久しぶりに会うチャーリーは前より背が伸びていた。
けれど、ビルと比べるとまだまだ小さい。
次の夏休みには更に大きくなっていそうだ。


「チャーリー、クィディッチチームに入ったのよね?」

「うん。シーカーだよ」

「試合観てみたいわ」

「観に来れないの?」

「うーん……私はチャーリーの保護者じゃないし、許可が出ないんじゃないかしら」

「そっか。残念だ」


ホグワーツの競技場を飛ぶチャーリーを思い浮かべる。
スニッチを追いかけて飛ぶ姿はかっこいいだろう。
そういえば、ホグワーツを卒業してからクィディッチの試合は観ていない。


「ねえ、ビルと喧嘩したの?」


クィディッチについて考えていたら頭の中が一気にチャーリーの言葉で埋め尽くされる。
不思議そうに首を傾げながら私を見るチャーリーに何と答えようかと言葉を探す。


「ビルに聞いても教えてくれないんだ」

「喧嘩した訳じゃないのよ」

「そうなの?」

「うん。ただ少し、私が忙しくしてるだけ」

「忙しいなら、僕帰った方が良い?」

「大丈夫よ。今は休憩中。チャーリーさえ良ければ私の休憩に付き合って欲しいな」


私の言葉にチャーリーは笑顔で頷く。
チャーリーの学校生活の話を聞きながら、弟を思い出す。
もし生きていたら、チャーリーと仲良くなったりしただろうか。
一つ下だから、あまり関わったりしないかもしれない。
面倒見の良いビルのお世話になっていたりして。
でも、両親と弟が生きていたら今のようにウィーズリー家とは知り合っていないだろう。
どちらにしても寂しいなんて思うのは一緒に過ごした時間があるからだろうか。


「じゃあ、僕そろそろ帰る。邪魔したらママに怒られちゃうし」

「大丈夫よ。怒られたりしないわ」

「名前はママが本気で怒ったところ見た事ないから」


拗ねたように言うチャーリーの頭を撫でる。
玄関までチャーリーを見送るついでにモリーさんへの伝言を託す。
モリーさんが残念がる様子を思い浮かべると心苦しい。
ビルとこのままだとウィーズリー家との交流がなくなってしまうんだろうか。
それはとても嫌だけど、今のビルの気持ちは受け入れられない。
小さくなるチャーリーの姿を見守りながら、なんて自分勝手なのだと自分を叱咤したくなる。
けれど、ビルに変に期待を持たせるなんて事はしたくない。
だからきっと、私の選択は正しいのだ。




(20191120)
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