手紙のやり取りに変化はなく、バレンタインの事が心の中で気になりながらも日々は過ぎて行く。
テスト勉強をしながら、テストの最中に、食事中に、眠る前にと様々なシチュエーションで思い出しては溜息を吐いてしまう。
今朝届いたまた夏休みにという言葉で締めくくられた名前からの手紙を読み終え、また溜息を吐く。
テストが近いという事は夏休みも近いという事で、つまり名前に会う機会も近い訳で。


「おーいビル、一つどうだ?」


扉の開く音、近付いてくる足音、そしてカーテンの開く音。
友人が差し出す箱を見て思わず顔を顰めた。


「なんだ、ラブレター読んでたのか」

「ラブレターじゃない。それ、変な味ばっかり残ってるんじゃないのか?」

「そんな事ないぜ。ほら」


箱の中を覗き込んで残っている物を確認する。
確かに色々と残ってはいるようだ。
比較的マトモそうな色をと、オレンジ色を手に取る。
口に入れ噛んでみると人参味だった。


「何味?」

「人参。当たりでも外れでもないよ」

「そうだな」


友人はベッドに座り、箱の中を覗く。
青色を手に取り鼻に近付けて何の味か当てようとしている。


「バレンタインの感想は今もなし?」

「ないよ。……このままなくても良い気がしてきた」

「なんで?」

「なんでって……このままなら仲の良いお隣さんで居られるから?」

「ふーん」


友人は匂いで味を当てる事を諦めたらしく、口に放り込んだ。
何度か噛んで、ソーダだと嬉しそうな顔をする。
当たりを引き当てたからか、興味を失ったように箱をベッドに置いた。
その友人の手が名前の手紙に伸びている事に気付いてその手を掴む。


「ビルはさ、このラブレターの相手が好きなんだな」

「だからラブレターじゃないって」

「一人の人としても好きだから、上手くいかなかった時に今みたいな関係じゃなくなるのが嫌なんだろ」


友人を見ると空いている手が伸びてきて手を外された。
反論の言葉もなく自分の手を見ていたら手に黄色の粒が置かれる。
食べてみるとそれはレモン味だった。




自分の部屋に荷物を置き、階段を降りていくと直ぐに手伝いを頼まれる。
名前の所へ行こうか悩んでいたからちょうど良いのかもしれない。
干されている洗濯物を取り込みながら、遠くに見える名前の家へ視線を向けた。
今日も名前はあの部屋で魔法薬を作っているんだろうか。


取り込んだ洗濯物を入れたバスケットを抱えて家の中に戻ると隠れているフレッドとジョージを見つけた。
何かの様子を窺いながら小声で話し、笑っている。
また何か悪戯をしているんだろうなと様子を窺っている先を見てバスケットを持つ手から力が抜けそうになった。
会いたいけど会いたくない、今はそんな気持ちを抱えている相手。
心の準備もどう接するかも何もかも考えている途中。


「そろそろ買わなきゃと思っていたのよ。助かるわ」

「これくらい、いつでも」

「お夕飯、食べていってちょうだい。今日は子ども達もホグワーツから帰ってきたし、何か聞きたい事があるみたいだから貴女が居るとアーサーが喜ぶわ」

「じゃあ、お手伝いします」


ママとそんな会話をして二人はキッチンへと向かう。
途中でママが杖に手を伸ばすと掴む前に杖は転がっていく。
不思議そうに杖を見るママを見てフレッドとジョージが笑っている。
フレッドの手には糸が握られていて、その先はママの杖に繋がっているようだ。
見つかって共犯にされたら堪らないのでさっさとその場を離れる。
勿論、名前には見つからないように細心の注意を払いながら。
階段を一階分上りきった所でママの怒る声が聞こえてきた。




(20180723)
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