デートに誘う、と言葉にすればこんなに簡単なのに行動に移すとなると難しい。
勇気が出ないまま冬休みは終わってしまい、あっという間に新学期が始まってしまった。
レポートをやりながらも偶に思い浮かぶ名前の顔に思わず溜息を吐く。
ずっとホグズミードに誘ってくれていたあの女の子は凄い。


「ピクニックでも誘えば良かっただろ」

「冬に?」

「寒いか。じゃあ、家に呼ぶとか。でもお前んとこ大家族か」


ぶつぶつと言い続ける友人の言葉を聞き流して書き終わったレポートを巻く。
新しい羊皮紙を出して本を捲っていると友人は彼女に呼ばれたらしい。
肩を二、三度叩いて彼女と共に図書館から出て行った。
レポートのタイトルを書きながら、再び名前の顔を思い浮かべる。
名前がまた誰かを好きになる日が来るだろうし、それが自分だと良いなとは思う。
その為には何か行動を起こさなければなと思うのも何度目になるだろうか。


「正直、相手にされない気がする」


近くに居た下級生が振り向いた。
声に出ていたのだと気付き何でもないのだと首を振る。




ホグズミードが生徒達で賑わっているのはいつもの事だ。
しかし、今日は特に雑貨屋に人が多い。
もう直ぐバレンタインだから皆カードやプレゼントを選んでいる。
それに倣って友人と来てみたものの、人が多く近付けない。
どうしようかと悩んでいたらいつの間にか友人がカードを手にしていた。


「そんなの送るのか?」

「こういうのが好きなんだよ」

「へえ……チャーリーと話が合いそう」

「それ俺が気にしてる事!」


ドラゴンが描かれたカードを見ながら友人が溜息を吐く。
どうやらチャーリーとは既に仲が良いらしい。
大変だなとだけ言って棚に目を向ける。
今年は名前に何を送ろうか。
そういえば毎年カードとお菓子を送っているけれど名前はどう思っているんだろう。
聞いた事がなかったな、なんて思っていたら目の前にカードが差し出された。


「ほら、ビルの分も持ってきたぞ」

「ええ……これ?」

「ちょうど良いだろう?」


差し出されたカードは如何にも恋人用だと言わんばかりのデザイン。
こんなカードを送ったら何も言わなくてもはっきりと伝わってしまう。
いや、今は伝わってしまっても良いんだろうか。


「これで送ってみろよ。花と一緒にさ」

「花?」

「薔薇が良いんじゃないか。仲良いんだろ?」

「いや薔薇は……ちょっと」

「そうか?」


首を傾げる友人に頷くとカードを渡される。
レジへと向かう友人を見送りながら頭の中では色んな花が浮かぶ。
名前に意識をして貰うなら、良い機会なのかもしれない。




バレンタインから暫く経った頃、名前からの手紙が届いた。
きっとバレンタインのプレゼントの事が書いてある筈。
カーテンを締め切ったベッドに座り、ドキドキしながら見慣れた文字で書かれた自分の名前を見る。
悩みに悩んだ結果、カードは無難な物にしてクロッカスの花束を一緒に送った。
いつもと違うプレゼントに名前は一体何を思ったのか、知りたいような知りたくないような。


深呼吸をして手紙を開封し、読み始める。
読み進めていくうちにドキドキが治まっていき、ガッカリしてしまう。
ただバレンタインのプレゼントを有難うとだけ書かれていた。
ベッドに倒れ込むと枕から空気が抜ける音がする。


「何も、気付かなかったのかな」


溜息を吐いて枕に顔を埋めた。
答えがハッキリしている勉強とは違って、難しい。
今此処に未来の自分が現れて的確なアドバイスをしてくれたら良いのに。
なんて、上手くいくかも解らないのにそんな事を考えてしまう。




(20180529)
24
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -