名前の手紙が効果を発揮したのか、あの人からの手紙は来なくなったらしい。
ずっと手元にあったあの人との写真も燃やしてスッキリしたと名前が笑っていた。
そして何事も起こらずに夏休みは終わり、明日はホグワーツへと向かう日。
今日もいつものように手伝いをしながらご機嫌な名前を見て複雑な気持ちになる。
もうこれは毎年の事なのに、名前の事が好きだと自覚したらいつもよりもホグワーツに行きたくないと思ってしまう。
でも、ホグワーツに行って色々と勉強したい気持ちもあって、どうにも表現出来ない。


「よし、終わり。お疲れ様」

「名前もお疲れ様」

「じゃあ、家まで送るわ」


そう言いながら部屋を出て行く名前に驚きながらも追いかける。
ローブを羽織るのを見ていると行くわよと促された。


「名前、出掛けるの?」

「ええ。友達と約束があって」


急に呼び出されちゃって、と名前は笑う。
そっか、と言いながら聞きたい事を飲み込む。
昔なら友達について簡単に聞けていたと思う。
でも今は、その友達が男だったらと考えると聞けない。
名前にどうしてそんな事を聞くのか問われたらどうしようか。
好きだという気持ちに気付いて欲しいけど、まだ気付いて欲しくない。
まだ、気持ちを言ったところで相手にして貰えないだろう。


「戸締まりもしたし、オッケーね。家の前まで送るわ」

「ううん、大丈夫。名前は早く行って。待ち合わせに遅れるよ」


名前の背を押して促すと気を付けて、という言葉を残して名前は姿くらましをした。
溜息を吐いて名前の消えた場所から目を逸らす。
まずするべき事は弟じゃなくて男として見て貰う事。
でもまだ学生の自分をどうやったら男として見て貰う事が出来るんだろう。




ホグワーツに戻ってから図書館で何冊か物語を借りてきた。
所謂恋愛物語を読んでみたら何かヒントがあるんじゃないかなんて思ったのにいまいちこれという物はない。
読み終わり閉じた本をまた一冊積み上げると隣に誰かが座り、その本を手に取った。


「女の子の研究?」

「そういう訳じゃないけど」

「ふーん。こんなん読んでるから手紙の子と何かあったのかと思った」


読むわけでもなく本を捲る友人の言葉にドキリとする。
確かに何かはあったけれどそれは名前がスッキリしたというだけで。


「年上だっけ、手紙の子」

「……話した?」

「いや。ただ、ホグワーツ生じゃないなら年上かなーってな。毎年誕生日にプレゼント送られてくるし」


ふと女の子のグループと目が合って慌てて荷物を纏めて友人を引っ張り寮へと戻る。
あのグループが聞いていたとは限らないけれど名前の存在を知られるのは嫌だ。
今日の談話室は人が沢山居たから誰が聞いているか解らない。
ベッドに荷物を置いてそのまま座るとニヤニヤ笑う友人の顔が目に入った。


「何だよ」


ニヤニヤしたままの友人に枕を投げると簡単にキャッチされる。
投げ返された枕をベッドに戻し、置いた時に崩れた本を重ねていると友人が隣に座った。


「やっと好きって自覚したんだな」

「え?」

「あーんなに嬉しそうに手紙読んでたら気付くぜ」


思わず顔に手を当てると友人が笑い声を上げ背中を叩かれる。
手紙を読むのはいつも寮だったから同室の友人には見られていてもおかしくない。
カーテンを閉めておけば良かったと後悔しても今更だ。


「デートに誘うんだろ?」

「デート……あー、うん。まあ……うん、多分?」

「悩んでるのは恋愛対象じゃないからか」

「何で」

「俺の彼女がそう言ってたから」

「……年上だっけ?」

「いや、向こうが下。寮も違うし学年も違うから恋愛対象外からのスタートだった訳だ」


アドバイスしようかという友人の提案を断ってまだ読んでいない本を手に取る。
しかしこれを読んでも参考にはならないだろう。
どうすれば良いかなんて答えは出ているけどまだ勇気がないのだ。




(20170921)
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