恋人だったと言う男子生徒は名前の頬にキスをして、名前は照れながら笑う。
見たくないのに目が逸らせなくて、まだドキドキとしている。
言葉は浮かんでいるのに聞いて良いのか悩んでしまう。
そのくせ早く答えを聞いてしまいたいと思うなんて、矛盾している。
落ち着かせようと紅茶を飲んで息を吸って吐く。


「まだ……好きなの?」

「いいえ、好きじゃないわ」


全く悩まずに間髪入れず答えた事に驚いた。
でも手紙を見た時のあの表情を思い出して納得する。
今も好きならあんな顔はしない、と思う。


「他に質問はある?」

「ううん……大丈夫。多分」

「そう。じゃあ、終わり」


名前はいつものように笑うと写真を重ねて杖を振る。
写真は消えて代わりに今までなかったサンドイッチが現れた。
それを食べながら名前はこれから作る魔法薬の話を始める。
黙って聞きながらサンドイッチをかじって飲み込む。
気が付いたらあんなに感じていたドキドキは消えてしまっていた。




翌日、名前の家に行くと玄関に人影があって何やら揉める声が聞こえてくる。
珍しいなと思いながら近付いていくと言葉がはっきり聞こえるようになった。


「帰って」

「また来るからな」

「二度と来ないで」


名前の冷たい声にドキリとする。
しかし揉めている相手が振り返った瞬間更にドキリとした。
直接会うのは初めてだけれどこの人を知っている。
あの写真の中で名前の頬にキスをしていたあの人。
目が合ったと思ったらその人はニヤリと笑った。


「随分若いけど、恋人?」

「違います」

「へぇ……まあ良いけど。じゃあまたな」


そう言うと姿くらましをして目の前から居なくなる。
名前を見ると傷ついたような顔をしていた。
目が合うとハッとしたように笑顔を作ったのに、失敗しているみたいで。
思わず駆け寄って名前を思わず抱き締めた。


「名前」

「……どうしたの?」

「紅茶、飲もうよ。今日はクッキー持ってきたんだ」

「クッキー……そうね」


名前の手を握ってそのまま家の中に入る。
あの人は一体何をしに来て、どうして名前はあんな態度を取るんだろう。
二人の事は昔恋人だったという事しか知らない。
本当に僅かな時間しか目の前に居なかったけれど、余り良い印象は残らなかった。
そんな事を正直に伝えたら、名前は悲しむだろうか。


「座ってて」


名前に椅子に座って貰い、いつも通り紅茶の用意をする。
ポットにお湯を注ぎ、カップを二つ出して持ってきたクッキーを皿に並べテーブルに置く。
準備をしている間わざと名前の顔は見なかった。
何故か見られなかったと言う方が正しいかもしれない。
向かい側に座り静かに息を吐いて顔を見ると、名前はぼんやりとクッキーを眺めていた。
ポットから紅茶を注いで名前の前に置くと小さな声でお礼の言葉が返ってくる。


「クッキー、ママが今日は一段と上手に焼けたって言ってたんだ」

「そうなの?」

「うん。だから、名前にも食べて欲しかったみたい」


名前はクッキーをジッと見つめて、一枚手に取った。
ゆっくり食べ終わった名前はまた小さな声で美味しいと言って笑顔になる。
どうしてかは解らないけれど、それだけで泣きそうになった。




(20170304)
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