粗方片付いたであろう部屋を見渡してちょっとした達成感を得る。
杖を振って紅茶を淹れると真新しい椅子に座って今朝届いた手紙を広げた。
そのうちの一通は祖父から、何通かは友人、最後の一通は余り嬉しくない相手から。
いや、嬉しくないと言えば嘘になるだろうか。
自分でも的確に言い表す事は難しい感情だ。
祖父、友人の順番で手紙を読んでいき、残った一通の手紙。
読もうか、辞めようか、見慣れた字を見ながら考える。


「……届かなかった、って事にならないかな」


思わずそんな風に呟いてみたところで目の前の手紙は消えない。
意を決して手紙を掴み、棚の引き出しの中へとしまう。
しかもちょっと見ただけじゃ目に付かないような一番下。
読まないを選択したけれど気持ちはぐらぐら揺れる。
本当に届かなかった事にしてしまいたい。
溜息を吐いて紅茶を一口飲むと予想以上の渋さが口内に広がった。


渋い紅茶を放っておいて羊皮紙と羽根ペンを広げる。
思いついたままに字を書いて飼い始めたばかりの梟を呼ぶ。
名前も決めていないから呼ぶだけで一苦労だ。
大人しい子だと聞いていたのに、環境が変わったからかなかなか来てくれない。
私の手の届かない場所をくるくると飛んでいる。


「お願いだから、降りてきて」


お願いしてみてもどうやらその気にならないらしい。
どうしたものかと考えていると笛のような高い音が聞こえた。
と同時に高い場所から降りてきた梟が音のした方へと飛んでいく。
その先に視線を向けると一人の少年が立っていた。
赤い髪に青色の瞳の彼の腕に梟が止まっている。


「手紙、お願いするんでしょう?貸して下さい」


声変わり前の高い声でそう言う少年。
差し出された手に手紙を乗せると彼は慣れた手つきで手紙を括り付ける。
そして少年がお願いねと言うと梟は返事をして飛び立って行った。


「あ、有難う」

「どう致しまして。お姉さん、引っ越して来たんですか?」

「ああ、うん。それより、どうやって入ったの?」


何処かに子供一人が抜けられる穴でもあるのだろうか。
いや、片付けた時にはそんな穴は無かったと思う。


「玄関が開いてました」


衝撃の発言に自分の記憶を辿ってみるけれど開けた記憶も閉めた記憶も無かった。
祖父が一人暮らしだから戸締まりには気を付けなさいと言っていたのを話半分に聞いていたのがいけなかったか。
こんな事が祖父に知られたら怒られた挙げ句連れ戻されてしまうだろうから黙っておこう。


「貴方は、この近くに住んでるの?」

「あそこです」


窓際に立ち少年が指差した先に見える建物が彼の家らしい。
窓から見える大きさは大体スプーン位だろうか。
結構距離がある事を伝えたら彼は家の周りが遊び場だと答える。
随分広い遊び場だと思いながら名前を名乗っても聞いていない事に気付いた。
距離があるとはいえお隣さんになるのだろうか。
ご近所付き合いは円滑に行うに限る。


「私は名前・名字」

「ウィリアム・ウィーズリーです。ビルって呼んで下さい」

「ビル、ね」


紅茶でも一緒に飲もうか、と誘うと少年改めビルはにっこりと笑った。




(20150318)
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