家に帰るホグワーツ特急の中でふと友人の言葉を思い出した。
そう発言した本人は彼女の所へ行ったきり帰ってこない。
雨粒が打ちつけられる窓を見ながら名前の顔を思い出す。
「会えば解る、ねぇ」
忘れられない手紙を見た時の名前の顔と、出会った頃に見た物が散乱した部屋。
ロンドンまではまだまだかかりそうだ。
帰宅した次の日、名前の家へ向かいながら頭の中で友人の言葉がぐるぐると回る。
会って本当に解るんだろうかという疑問と解ったとしてどうなるんだろうという不安。
近付いていく名前の家に緊張しているのは初めてかもしれない。
深呼吸をして、ドキドキしながらノックをする。
待ってみても返事がなくて中から足音も聞こえてこない。
ドアノブを捻ってみると何の抵抗もなく扉が開いた。
「名前、居ないの?」
声を掛けながら中へ入って仕事部屋を覗いてみる。
いつも魔法薬を作っている大鍋は空っぽで机の上には詮がされた瓶が並んでいた。
注文の手紙が隣に置いてあるからきっとその魔法薬だろう。
手伝いをしようと思って来たのに今日の仕事は終わってしまったんだろうか。
仕事部屋を出てキッチンを覗くとそこに名前は居た。
テーブルに突っ伏して眠っているらしい。
なるべく音を立てないように近付くとテーブルの上に置かれている写真が見えた。
四人家族で母親は赤ちゃんを抱いて父親は女の子の肩に手を置いている。
動かない写真が珍しくてまじまじと見つめてしまう。
それに、名前の家族写真は初めて見た。
名前はどんな気持ちでこの写真を見ていたんだろう。
写真をよく見たいと思って手に取った時、下の写真は動いている事に気が付いた。
写っている人を見た瞬間ドキリと心臓が大きな音を立てる。
ホグワーツの制服を着た名前と、そんな名前の肩を抱く男子生徒。
二人は幸せそうに笑いながら手を振っている。
名前も知らない相手だけどこれがあの手紙の相手なんじゃないかと何故かそう思った。
家族写真をその写真の上に重ねて見えないようにして、戸棚からティーセットを取り出す。
お湯を沸かしながらポットに茶葉を入れ大きく息を吐いた。
「ん……誰?」
「……おはよう、名前」
「ああ、ビルね。起こしてくれたら良かったのに」
目を擦りながら言った名前は写真に気付くと慌てたように此方を見る。
見たとはっきり言うべきか、見ていないと言うべきか。
どうしよう、と悩みながら表情を変えないように努力する。
ちゃんと出来ているかは解らない。
「紅茶、飲む?」
「え、ええ」
ポットにお湯を注ぎながらまだ悩んでいると名前が写真を纏め始める。
名前が片付けたスペースにカップとポットを置いて向かい側に座った。
紅茶を注いだカップを名前の前と自分の前に置く。
家から持ってきたビスケットとマーマレードも真ん中に置いた。
何を言って良いか解らなくてビスケットにマーマレードを塗る。
「ビル、あの……写真、見た?」
「あ……うん。勝手にごめんなさい」
「良いのよ」
名前は苦笑いをして写真の束を手に取った。
一番上にある家族写真を一枚取った名前の眉間に皺が寄る。
あの写真を思い出してまたドキドキとしてしまう。
「これも、見た?」
「……うん」
「そっか」
ビスケットを差し出すと名前が家族写真をテーブルに置いた。
見慣れない動かない写真の中では名前達が変わらず笑っている。
小さな名前を見るのは何だか不思議な感覚だ。
そしてその隣にあの写真も置く。
「これは私の両親と弟。前に話したわよね」
「うん。名前は、パパ似なんだね」
「そうね。パパは喜んでたわ」
「僕も、パパ似だから、凄く喜んだみたい」
ふふ、と名前が笑ったのを見てホッとした。
名前が笑っているとホッとするし嬉しくなる。
でも直ぐに名前は表情を変えてもう一枚の写真を見た。
同じように写真を見ると途端にドキドキしてくる。
どうしてこんなにドキドキするんだろう。
名前も知らない男子生徒が手を振っている。
「こっちは、私のホグワーツ時代の写真」
「……あの、聞いても良い?」
「どうぞ」
「恋人、なの?」
「昔のね。ビルがホグワーツに入る前だから、三年前までかな」
三年前、という事はこの家に引っ越してくる前。
もしかしたら引っ越して来た後かもしれない。
「今は、連絡取ってるの?」
「……偶に、手紙が送られてくる。それだけよ」
思った通り、あの手紙はこの男子生徒からだったんだ。
どうしてこんなにも送られてくる手紙の内容が気になるんだろう。
ドキドキする心臓が落ち着かなくて胸に手を当てる。
考えても無駄だと言う友人の声が脳内に響く。
(20161011)
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