冬休みが終わってホグワーツに戻って暫くするとホグズミード行きが張り出された。
それを見ながらまたあの子は来るのかな、と考える。
行く気になれないならもう誘わないで欲しいと伝えなければいけない。
いつもみたいに笑って頷くのか、それとも違う表情をするのか。
皆は気があるんだなんて言うけど本当にそうかも解らない。
名前の顔が浮かんできて早くも帰りたくなる。


「おはよービル。あ、ホグズミードか」

「うん」

「またあの子来るんじゃないか」

「どうかなぁ。でも、断るよ」

「ふーん……もったいないな。あ、俺一緒に行けないから」


もう誘わないでと伝えようか悩みながら聞いていたら最後の言葉で全てが吹っ飛んだ。
え、なんて情けない声を上げると友人はニヤニヤしながら肩に腕を回してくる。
そのままソファーに座ると相変わらずニヤニヤしたまま口を開いた。


「実は彼女が出来たんだ」

「え?」

「夏休みにダイアゴン横丁で偶然会ってさ。そのままデートに誘ったんだ」


その後も何回もデートして何処でキスをしたかまで事細かに得意気に語る。
ずっと好きでデートに誘うチャンスを狙っていたらしい。
恋人、という言葉が名前の声で脳内に響く。
それから何故かあの手紙を見た時の名前を思い出した。


「ビルは、好きな子居ないのか?」

「え、うーん……どうだろう。考えたことなかったな」

「いつもの手紙の相手とかどうなんだ?」

「え?」

「ほら、名前なんだっけ……一年の頃から文通してるだろ?」


それは間違いなく名前で、でもどうなんだと聞かれても解らない。
名前は隣の家に住む年上の人で、それで、何なのだろう。
友達とは違うような気がするし、勿論家族とも違っていて。


「そもそも好きって、どう違うんだ?」

「んー……一緒に居たいかどうかじゃないか。ほら、俺とは一日中一緒に居たいとは思わないだろ?」

確かに、と頷きながら朝食の為に談話室を出る。
大広間に向かって歩いていると最近覚えた声に名前を呼ばれた。
やっぱり今回も来たか、と思いながら溜息を吐く。
向こうが諦めてくれたら良いのになぁ、なんて思ってみたり。




羽根ペンの先をインクに浸しながら息を吐く。
一日中名前の顔と朝友人に言われた言葉を思い出していた。
それから名前も知らないあの子の悲しそうな顔。
もう誘わないでなんて言われるなんて思っていなかったかもしれない。
もし、名前にもう来ないでなんて言われたら。
そう考えた瞬間に嫌な汗が噴き出した。
いつもよりはっきりと解る心臓の音を無視するように首を振る。


「何、悩み?」


トン、と肩に置かれた手と掛けられた声。
彼女と勉強すると言って出て行った友人。


「悩みって訳じゃないんだけど」

「あ、それ手紙の子か」

「そう。見るなよ」


見られる前に名前からの手紙を封筒に入れてローブのポケットにしまう。
からかうように笑いながら隣に座った友人からいつもはしない甘い匂いがした。
彼女がつけている香水の匂いが移ったのかもしれない。


「好きかどうか考えてんの?」

「……」

「その顔は図星だな」


ニヤニヤ笑う友人から顔を逸らして羊皮紙やインク瓶を片付ける。
名前への手紙の続きは部屋で書く方が良い。
今までは気にしなかったのにどうしたというんだろう。
立ち上がると友人も立ち上がったので一緒に部屋へ戻るらしい。


「好きかどうかなんて考えても無駄だ。会えば解るよ」

「会えば……?」

「ああ、会えばな。夏休みまで長いなぁ。な、ビル」


ニヤニヤ、と相変わらずからかうように笑う友人の肩にパンチをする。
それでもからかうような笑い方は変わらない。
これ以上は無視する事にして部屋の扉を開いた。




(20161009)
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