名前の手伝いをしながら昨日の事を話そうか悩む。
パパが起きたから途中になってしまった。
でも本当に途中になってしまったのかは解らない。


「あ、梟が来たみたいだわ。ビル、見てきてくれる?」

「うん」


部屋から部屋に移動するとそこに居たのは知らない梟だった。
足に巻かれている手紙を外すと直ぐに飛び去っていく。
ボーッとそれを見送って、姿が見えなくなってから仕事部屋に戻る。
名前に手紙を渡して先程までやっていた作業を再開した。
すると名前から困ったような声が聞こえてくる。
顔を上げて名前を見ると珍しく機嫌が悪そうな顔をしていた。
思わず名前を呼ぶと名前は慌てて手紙をポケットに突っ込む。


「あの、大丈夫?」

「ええ、大丈夫。ちょっと早いけど休憩にしましょうか。先に行って準備しておいてくれる?」

「うん」


先程と同じ様に部屋から部屋へ移動しながら振り向きたい気持ちを堪える。
何となく、名前は今見られたくないんじゃないかと思う。
ふとあの散らかった部屋を思い出す。
ベッドに座っていたあの時の名前と同じ様な気がした。


紅茶を淹れてクッキーを出して、それでもまだ名前は来ない。
どうしようか考えながら紅茶に砂糖を入れかき混ぜる。
四角かった砂糖はあっという間に溶けて消えてしまった。


「あら、準備終わってた。ごめんね」

「ううん。僕手伝いに行けば良かった?」

「大丈夫よ。有難う」


そう言って名前は自分のカップに紅茶を注ぐ。
こういう時に何て言ったら良いか解らない。
聞いて良いのか、聞いちゃいけないのか。
悩みながらクッキーをかじると名前が笑った。


「ごめんね。気になるでしょ」

「え、っと、」

「ビルは優しいわね。誰かさんとは大違い」


名前の言う誰かさんはきっとあの手紙の相手。
どんな人なんだろう、と思いながらクッキーをもう一枚かじる。
何故か聞こうと思ってもどうやって聞けば解らない。
言葉は知っているのに、知らなくなったみたいだ。


「そういえば、女の子から誘われてたんだっけ?」

「あ、うん。毎回断ってるけど」


聞くタイミングを失ってしまった、と思いながら質問に答える。
あの子が誘ってくるのはホグズミード行きの時だけ。
そういえば廊下ですれ違った事はなかったかもしれない。
もしかしたらすれ違った事に気付いてないだけかもしれないけど。


「デートに誘われてるんだって友達は言うんだけど」

「デートに行くのは、嫌なの?」

「嫌って訳じゃないけど……よく知らない子だし」

「よく知らない子なら、一度行ってみたらどんな子か解るんじゃない?」

「そうだけど」


だけど、の後の言葉が浮かばなくて紅茶を飲む。
確かに一緒に行けば名前も性格も解る。
それは充分に解っているけど、気が進まない。
三枚目のクッキーを食べながら言葉を探す。


「恋人になってって言われてる訳じゃないんだし」

「こいびと……恋人?」


名前の言葉が直ぐに理解できなかった。
繰り返し恋人と呟くと名前が頷く。
恋人なんてそんな事、考えもしなかった。


「でも、本当に困ってるならそう伝えるしかないわね」

「……うん、そうだね」


四枚目のクッキーは甘い筈なのに何故か苦く感じる。




(20160916)
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