「そういえば、今年はチャーリーが入学だったわね」


いつものように魔法薬作りを手伝っていたら突然名前が言った。
家でチャーリーは僕にホグワーツの事ばっかり聞いてくる。
その度にママが入学してからのお楽しみ、と言ってしまうからチャーリーは拗ねてしまう。


「うん。手紙が来てからは毎日それを眺めてるよ」

「ふふふ。チャーリーはどの寮になるかしら」

「ママは兄弟だからきっとグリフィンドールだって言ってるけど、兄弟は同じ寮になるの?」

「うーん……確かに同じ寮になる事が多いけど、そうとは限らないわ。兄弟で違う寮だった子、居たもの」


チャーリーと違う寮になってしまった自分を想像してみる。
しかしあんまり上手に想像出来なかった。
もし違う寮だったとしてもチャーリーが弟な事に変わりはない。
チャーリーがどの寮になるか組み分けを見るのを楽しみにしていよう。


「あれ、そういえば名前の弟ってチャーリーと同じ年だったよね?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ名前の弟も今年入学?」


そう聞いた瞬間、名前の手が止まった。
でもそれもほんの少しの間で、また直ぐに鍋に材料を入れ始める。


「……私の弟はね、ホグワーツには行けないの」

「手紙が来なかったの?」

「ええ、そうね。手紙は来ないのよ」


どうして、と聞きたかったのに、何故か言葉にならなかった。
そういえば名前の家族の話はあんまり聞いた事がない。
知っているのは弟がチャーリーと同い年だという事とおじいちゃんおばあちゃんがいる事。
おじいちゃんから手紙が来てる事は知ってるけど、両親からの手紙は見た事が無い。
もしかして、と急に嫌な想像が思い浮かぶ。


「名前の、家族って、もしかして……」

「多分、ビルが考えた通り。もう居ないのよ」

「……ごめんなさい」


もう居ないだなんて考えもしなかった。
よく考えれば少し前はそういう時代だったって解る筈なのに。
やっぱり聞いちゃいけない事だったのかもしれない。
僕にはパパもママも兄弟も居る。
だから一人がどんな気持ちかなんて解らないけど、とっても寂しいんじゃないかと思う。
パパやママ、兄弟達にもう二度と会えないって考えたらやっぱり寂しい。


「ビル、ちょっと休憩しましょうか」


手を引かれて、キッチンまで連れていかれる。
テーブルの上には名前の梟が居て、クッキーを食べていた。
梟を撫でると気持ちよさそうに鳴く。
新しいクッキーをあげると止まり木に飛んで行ってしまった。
入れ替わりのように名前がカップを二つテーブルに置いて座る。


「今日は紅茶で良いかしら?」

「うん」


名前がテーブルの端に置いてあった缶を開けて真ん中に置く。
この缶はいつも名前のおばあちゃんがお菓子を入れて送ってくる缶だ。
丸いクッキーが沢山詰められている。
名前はカップに口元に運んで一口飲むと息を吐いた。


「隠していた訳じゃないの。言ったら、気にするかと思って……あ、やっぱり隠してたのかしら」

「僕が子供だから?」

「……それもあるかもしれないわね」

「ごめんなさい。聞かれたくなかったよね」

「ビルが謝る事じゃないのよ」


伸びてきた名前の手が頭を撫でる。
気にしなくていいと言われても、気にしてしまう。


「……寂しい?」

「ええ、一人になって暫くはね。でも、泣いて暮らす訳にもいかないし、今はビル達が遊びに来てくれるから寂しくないわ」

「本当?」

「本当。それに、ビルが笑ってくれたら私も楽しいわ」


そう言って笑う名前はいつもと変わらない笑顔だった。
僕が遊びに来ると寂しくないなら、これからも遊びに来よう。
遊びに来るだけじゃなくて家に名前を呼ぶ回数も増やしたい。
それで名前が楽しいと思ってくれるなら、僕は嬉しいと思うから。



(20160503)
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