元気に歩き回るロンを見ながら持ってきたクッキーをかじる。
さっき見つけた木の枝がお気に入りらしい。
朝からロンの子守で、散歩ついでに名前の家まで来てみたけど今日も留守だ。
三週間前から名前は何処かに出掛けていてまだ帰って来ない。
ママに聞いてみても知らないと言われるだけだった。
せっかく夏休みで帰って来てるのに、名前に全然会えない。
「ロン、あんまりそっち行くと危ないぞ」
何かを見つけたのかどんどん歩いて行くロンを追いかけようと立ち上がった。
足の長さはロンの方が短い筈なのに距離がある。
ママが小さな子はすばしっこいって溜息を吐いていたのを思い出す。
小さな石を持って笑いながら見せてくれるロンを抱き上げて戻る。
「ほら、クッキー食べるか?」
「うん、食べる」
石に興味が無くなったのか放り投げてクッキーを掴む。
そういえば名前はクッキーが焼けるようになったのかな。
練習しなきゃ、って言っていたのはクリスマスの事だ。
ママが焼いたクッキーは変わらずに今日も美味しい。
だけど、失敗した物でも良いから名前が焼いたクッキーを食べたいな、って思う。
「ビル、ここ誰の家?」
「名前の家だよ」
「居ないの?」
「そう、今はね。ずっと出掛けてるんだ」
ジッと名前の家を見るロンに新しいクッキーを渡す。
でも受け取ろうとしなくてロンと同じ方を見る。
窓が閉まってた筈なのに、今は開いていた。
慌てて立ち上がって窓から名前を呼ぶと部屋の奥から音が聞こえてくる。
「あらビル、来てたの?」
「うん。入って良い?」
「勿論。玄関今開けるわね」
クッキーをポケットにしまってロンを抱き上げて玄関に向かう。
玄関が開くと僕とロンを見て名前が笑った。
家の中は少し閉め切っていた匂いがするだけでいつもとあんまり変わらない。
「二人ともジュースで良いかしら?」
「うん」
「僕手伝う」
ロンを座らせてグラスを三つ出すと名前がジュースを注ぐ。
一つをロンに渡して隣に座ると名前が向かい側に座る。
「何処に行ってたの?」
「ちょっと祖父の家にね。すぐ帰ってくるつもりだったんだけど、色んな事を頼まれて遅くなっちゃった」
「そっか。何かあったのかと思った」
「……ふふ、心配してくれたのね。有難う」
心配もしたけど、本当は会えなくてつまらなかった。
でも帰ってきたから残りの夏休みはいつでも会える筈。
ママから手伝いを言われないように抜け出さないと。
「ロンはまた大きくなった?」
「うん、僕フレッドとジョージと同じなんだ!」
「同じ?」
「背の高さが同じなんだ。ロンはパパに似たみたい」
ママが三つ子みたい、って言っていた。
そのうちロンの方が大きくなると僕は思う。
フレッドとジョージは背の高さよりどうやったら上手に悪戯が出来るかって事の方に興味があるみたいだけど。
偶にママが二人がちゃんと成長してくれるかしらって心配している。
そう話すと名前は確かにねって笑いながら頷いた。
「そうだ、祖母が作ったビスケットがあるのよ。食べる?」
「食べる!」
「食べ過ぎるとママに怒られるぞ」
「えー」
「モリーさんに怒られるのは嫌だわ。少しだけね」
名前はそう言うと見慣れない箱を取り出して蓋を開ける。
ビスケットが沢山入っていてロンが早速手を伸ばした。
それを見て名前は笑いながらお皿にビスケットを盛り付ける。
「名前、もう出掛ける予定は無いの?」
「ええ、今のところはね」
「じゃあ明日からまた来ても良い?」
「良いけど、偶にはモリーさんのお手伝いもしないと。ねえ、ロン」
ビスケットを夢中で食べていたロンが首を傾げた。
明日は早く抜け出して一人で来よう。
名前に頭を撫でられたロンは笑ってまたビスケットを食べ始める。
(20151119)
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