左手の薬指にある指輪が見慣れてきた頃、リビーからお誘いの手紙が届いた。
雪が降る中を目当てのお店を目指して歩く。
来月の今頃は、雪は溶けてしまっているだろうか。
目当てのお店に入ると直ぐにリビーと目が合った。


「こんにちは、リビー」

「あ、来たわね。ちょっと待ってて」


いそいそと奥へ向かったリビーを見送って店内を見渡す。
暫く来ない間に何だか品揃えが豊富になった気がする。
可愛らしい置物はマグルの世界の物だろう。
昔家にあった物と似た猫の置物を思わず手に取る。
母親のお気に入りで、割ってしまった時は怒られなかったけれどとても落ち込んでいた。
その様子を見て後悔に襲われ、直ったら良いのにと思ったら翌朝直っていたのが不思議な現象の始まり。
まさか魔法だなんて思わないから両親が揃って暫く首を捻っていたのを思い出す。


「お待たせ」

「仕事お疲れ様」

「名前こそお疲れ」


店長さんに挨拶をしてから私服に着替えたリビーと一緒に外へ出る。
暖かい店内から出たからか寒さが顔を刺す。
漏れ鍋で良いかと結論を出して早足でダイアゴン横丁を進む。


「なあにそれ」


漏れ鍋で料理を頼んで手袋を外した瞬間だった。
リビーは目敏く指輪を見つけ、顔をキラキラと輝かせる。
そういえば手紙に書き忘れていたっけ。


「クリスマスにビルに貰ったの」

「あら、じゃあプロポーズされたの?」

「え?」

「えって何驚いた顔してるのよ」


そんな言葉は無かったし手紙にもいつも通り日常の事しか書かれていなかった。
深く考えていなかったけれどそういう事なんだろうか。
詳しく説明するとリビーはふぅんと言ってニヤリと笑った。


「何よ、ニヤニヤして」

「別に?ただビルと仲が良さそうで安心したわ」


そう言ってリビーは話題を変えてしまう。
隙を見て聞こうとしても誤魔化されてしまった。




ソファーに座り込んで大きく息を吐く。
一週間の疲れも息と共に吐き出せたら良いのに。
ローブを脱いで背もたれにかける。
シャワーを浴びようかと思っていたら玄関のチャイムが鳴った。
はいはい、と気のない返事をしながら玄関の扉を開ける。


「こんばんは、名前」

「……ビル?」

「うん。偽物じゃなければ」


ニヤリと笑ったビルを室内に招き入れ、暖炉に火を点けた。
ビルはマフラーに手袋をしたまま暖炉前に座り込む。
色々聞きたい事はあるけれど、とりあえずココアでも入れようと杖を振った。


部屋が暖まってマフラーも手袋も外したビルにココアを渡す。
向かい側に座ってビルと同じようにココアを飲む。
温かいのは勿論、優しい甘さが疲れを落としてくれるみたいだ。
ソファーの背もたれに私とビルのローブが並んで掛けられている。


「帰ってきたところだった?」

「うん。リビーと会ってたの」

「そうなんだ。レストンは相変わらず?」

「相変わらずよ」


今度店に行こうかな、と呟いてビルは再びカップを傾けた。
ビルがお店に行ったらリビーが色々と問い詰めそうな気がする。
それはそれで見てみたい気がするけれどこっそり見ていたい。
現実ではこっそりなんてしていられないだろうけれど。


不意にビルが腰を浮かせたと思ったら隣に落ち着いた。
くっつく訳では無いけれど、友人よりは近い距離。


「名前の部屋、初めて来た」

「引っ越したのはビルがエジプトに行ってからだもの」

「次は名前がエジプトに遊びにおいで」

「……夏休みにね」


カレンダーを見て長いねと笑いココアを飲み干した。
でも片付けようとはせずに真っ直ぐ暖炉の炎を見つめながら手の中で弄ぶ。
最後にクリスマスに会った時よりも髪の毛が伸びた気がする。
不意にビルが此方を向き、私の手へと視線を落とした。


「それ、してくれてるんだね」

「うん。だって、恋人からのプレゼントだもの」

「嬉しいよ」


そう言ってビルは嬉しそうに笑うと立ち上がってキッチンへと向かう。
後ろ姿を目で追い掛けながらリビーの言葉を思い出す。
けれど直ぐに頭を横に振ってそんな考えを振り払う。
そんな形式に拘る訳じゃないし、ただわざわざ会いに来てくれた今この瞬間を一緒に過ごしている事が幸せな訳で、


「名前?」


不思議そうなビルの声が私の名前を呼ぶ。
体が勝手に動いて、いつの間にか後ろから抱きついていた。
背中に頬をくっつけて腕に少しだけ力を込める。
私は自分が思っていたよりビルの事が好きらしい。




(20140902)
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