「驚いたよ」


パキッと枝が踏まれて折れる音の次に聞こえる声。
適度に低い声はスッと耳に入ってくる。


「ごめんね。リビーが怒るんだもの」

「だろうと思った」


ふふ、と笑ったビルが芝生の上に座り、私もそれに倣う。
リビーと居た時から思っていたけれど今日はとても天気が良い。
日差しが気持ち良くてこのまま昼寝してしまいたい程。
この場にリビーが居たら昼寝なんて!と言いそうだ。


「レストン元気?」

「うん。相変わらずだったよ」

「見送りに行けー!って?」

「ふふふ、その通り」


ふと視界を巡らせると箒に乗るチャーリーが目に入る。
きっと下ではフレッドとジョージ、ロンが見ているのだろう。
それにしてもやっぱりこのまま昼寝してしまいたい。
一度そう思ったらそうしたくて堪らなくなる。
ゴロリ、とその場に寝転がると隣で笑い声がした。


「ビルもどう?」

「気持ち良さそうだよね」


寝転がる代わり、とばかりに伸びてきた手が髪の毛を一房持ち上げる。
そしてサラサラと指から零れ落ちいく。
顔に掛かってしまい、少しだけ鬱陶しい。
けれどまた直ぐに持ち上げられた髪の毛は指先で弄ばれる。
それをぼんやり眺めていたら青色の瞳と視線がぶつかった。
名前を呼ばれ、ビルが身を屈めたのが解り自然と目を閉じる。
軽く触れて離れていったのを確認して目を開くと、思っていたより近くに顔があった。


「来てくれて嬉しい」

「そう?それなら、来て良かった」


体を起こしたビルに手を引かれて起き上がる。
伸びてきた手が頭を撫でるようにして芝生を払う。
その手が背中まで滑っていって抱き寄せられる。


「クリスマス休暇で帰ってきた時かな」

「次?」

「うん。お互い仕事に慣れるので大変だろ?」

「そうね。ビルは直ぐに慣れてしまいそうだけど」

「どうかなぁ」


くすくす、と笑う声が耳元で聞こえて腕の力が強くなった。
お返しにと同じように背中に回した腕に力を込める。
そういえば、こんな風に抱き締めるのは久しぶりかもしれない。
ゆっくり力を抜いて先に立ち上がったビルに手を引かれて私も立ち上がる。
服の芝生を払っていたらビルが隣で杖を振るのが見えた。
綺麗にしてくれたのだと気付いてお礼を言うと笑顔が返ってくる。


手を繋いで隠れ穴への道をゆっくりと歩く。
いつもはこんなにゆっくりでは無いのに。
それはやっぱり出発の時間が迫っているからだろうか。
ビルが蹴っ飛ばした小石が前方へ飛んでいく。


「寂しい?」

「今は平気。向こうに行ったら思うのかも」

「そっか。離れてみないと、解んないね」

「でも、何て言うのかな……不安とか心配とかそういうのは、無いかな」

「浮気とか?」

「まさか。名前はそんな事しないよ。考えた事も無い」


当たり前だと言い切るから、少し驚いた。
勿論浮気なんてするつもりは全く無い。
それを伝えた事は無いけれど、ビルは解っている。
同じ様に私もビルが浮気するなんて考えた事は無い。
恋人になってからそんな心配をした事が無かった。
相手を信じる気持ちが同じだと解った事が嬉しい。
足を止めて、少しだけ背伸びをしてビルの頬に唇で触れる。
何となく、今したくなったのだ。


「行ってらっしゃい」

「ん、行ってきます」


再び隠れ穴に向かってゆっくりと歩き出す。
遠くでモリーさんが手を振っているのが見えた。




(20140511)
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